少年時代から博士/科学者を目指していた山海嘉之氏。ウシガエルの筋肉収縮特性を調べたり、レーザに使われるルビーを酸化アルミニウムから生成しようとしたり…。旺盛な知的好奇心の延長線上に「ロボットスーツHAL」はある。そんな山海氏の発想の原点にある「人や社会に対する思いやり」に日経ものづくりが迫ったインタビューを2回にわたって紹介する。(聞き手は日経ものづくり 中山 力)
「ロボットスーツ HAL(Hybrid Assistive Limb)」は、世界初の身体に装着するサイボーグ型ロボットです。装着者が身体を動かそうとする時に皮膚表面に漏れ出てくる意志を反映した生体電気信号を読み取り、その信号を基にパワーユニットを制御することで、身体の動きをサポートします注1)。
現在、下半身(脚部)の動きを補助するHAL福祉用が病院や福祉施設などで導入されている他、上半身(腕や腰)の動きも補助して重い物を持ち上げられる全身一体型もあります。2011年11月には、非常に重いタングステン製の放射線被曝量低減用ジャケットをHALと一体化させ、作業員がより安全に作業できる災害対策用HALも開発しました注2)。
技術は育てるもの
「HALはこれで完成しましたか」とよく聞かれるんですが、「いいえ、まだ完成したわけではありません。やっと社会の中で育ち始めたところです」と答えています。もちろん、HALには現時点での最高技術が組み込まれています。しかし、人や社会と一緒になって、まだまだHALを進化させないといけない、という強い思いがあるんです。
HALを進化させるためには、福祉や介護などの現場で一緒になってHALを使ってくれるユーザーの協力が不可欠です。そこから出てくるさまざまなフィードバックがHALを進化させてくれています。
新しい技術は、実は生んだ後にどう育てるかが重要なんです。例えば、自動車が今日に至るまでには、社会で使われ始めて100年を越える時間が費やされてきたのです。
注2)災害対策用HALは、福島第一原子力発電所の事故を契機に数カ月で緊急開発した。最大60kgの重さに耐えられるようフレーム部の強度を高めた他、安全靴などを履いたままで装着できるように工夫されている。