進歩が止まっているからこそ…

 キングジムの商品には徹底的な造り込みに加えて、特徴がもう1つあります。それは、いわゆる「枯れた技術」を使うことです。

かめだ・たかのぶ 1963年1月東京生まれ。1985年3月明治大学法学部卒業。同年4月キングジム入社、5月商品開発部に配属。1986年同社で電子文具開発プロジェクト「Eプロジェクト」が発足し、プロジェクトメンバーとして「テプラ」の開発を担当。2007年6月電子文具開発部部長、2011年6月執行役員開発本部副本部長に就任、現在に至る。(写真:栗原 克己)

 ポメラでは、核となる技術は白黒の液晶と日本語入力システム「ATOK」です。ATOKのジャストシステムさんには失礼ですが、どちらも枯れた技術ですよね。テプラでも、ファイルに貼るラベルを印刷するのに、今でも熱転写プリンタを使っています。これも、一昔前まではパソコン用のプリンタなどに利用されていましたが、最近ではすっかりインクジェットプリンタなどに取って替わられた、枯れた技術です。

 こう言うとネガティブな印象を与えるかもしれませんが、そこは考え方次第。枯れた技術は技術的な進歩が止まっているからこそ、スペックや価格が大きく変わりません。これに対して開発が盛んなホットな技術を使えば、モデルが半年ごとに替わり、そのたびに性能が倍になって価格は半分になってしまいます。このような技術を使った商品は、出してもすぐに陳腐化しますから、今のキングジムにはついていけません。

 ですから、海外から「Android OSを搭載したタブレット端末を扱いませんか」といった売り込みがあるんですが、丁重にお断りしています。半年後にその商品がどうなっているのかを想像したときに、我々が開発した商品よりも性能が高くて価格が安いものがきっと出ているに違いありませんから。

 それと、この種の商品に関しては、当社の商品を扱う販売店さんに納得してもらえないと思います。「キングジムさんの商品はそういうものじゃない」と。実際、当社の大ベストセラーであるキングファイルは40年ぐらいずっと売り続けていて、販売店さんは皆「キングジムさんの商品の価値はあまり変わらない」と信じてくれています。それが、ある日突然陳腐化してしまうようなものを出したら、当社の商品としては受け入れてもらえないでしょう。