デジタルメモ「ポメラ」や、インターバルレコーダー「レコロ」といったヒット商品を立て続けに生み出した、事務用品メーカーのキングジム。ユニークな商品で新市場を切り拓く同社の開発部隊で陣頭指揮を執る人物が亀田登信氏だ。1985年の入社以来、一貫して開発畑を歩き続けた同氏が、ヒット商品を生み出す開発現場の舞台裏を日経ものづくりに語ったインタビューの第2回。(聞き手は日経ものづくり編集長 荻原 博之)

私たちにとって重要なことは、開発した商品を求めてくれる人がいるかどうか、なんです。(写真:栗原 克己)

 いろいろなメーカーの開発担当の方とご一緒させていただくと、「キングジムさんの○○はなかなかマネできない」と言われることがあります。この真意は、「(商品コンセプトを)思い付かない」ではなく、「機能を絞れない」というものなんです。話をよく聞くと、開発段階では当社と同様の企画が出ても、社内でもまれていくうちにどんどんと不要な機能が付いていく。「××は付いていないのか」「これだけで大丈夫なのか」と。このことは、本当に、どのメーカーさんもおっしゃいますね。

ポメラに電卓機能は要らない

 ポメラだって、それこそCPUもあればプログラム領域もありますから、例えば電卓機能を載せようと思ったら簡単にできます、しかも同じ値段でね。実際に、社内では「電卓機能があった方が便利じゃん」といった話が出ました。しかし、ポメラの場合の造り込みというのはそうではなく、「メモを打つ」という点に特化して徹底的に使い勝手を高めることにありました。つまり重要なのは、企画段階のものをいかにそのまま商品にするかということ。余計な機能を付けないということなんです。

 だから、お客様からは「キングジムの商品って、搭載機能の8~9割くらいは使っている」と言われます。携帯電話機なんて、一度も選択していない機能が山ほどありますが、そうした商品とは大きく異なります。我々の商品はやっぱり使っていただきたい。理想的には、誰もが機能を100%引き出し、それが使いこなしによってさらに進化していくというようなものにしたいんです。そもそも文具って、そういうものですよね。ペンは書くだけ、ハサミは切るだけ。単機能だけど、ユーザーはそれを100%引き出す。そのためにも、コアの部分はちゃんと造り込んでいかないとダメなんです。

 その一方で、たまに「キングジムは必要なものまで切っていないか」と指摘されます。これは謙虚に受け止めなければなりません。当然のことながら、行きすぎはダメです。本当に必要な機能を切ってしまったら使えませんから。