市場はニッチで狭くても…

 「文字入力だけなんて、携帯電話機以下の機能じゃないか」とか「それで価格2万円以上では、売れるはずがないだろう」とか、参加していた役員15人中14人から反対されました。しかしそんな中、残る1人の社外取締役の大学教授が絶賛してくれたんです。「これこそが、私が待ち望んでいた商品だ」と。出張の多いその大学教授は、新幹線や飛行機など移動中に使うノートパソコンの起動の遅さや重さ、大きさに大きな不満を持っていたのです。

 私たちにとって重要なことは、開発した商品が世の中の基準に照らしてどうこうではなく、それを求めてくれる人がいるかどうか、なんです。そして実際にいるのであれば、その人たちのニーズを満足させるべく徹底的に造り込む。

 ポメラの場合には、開発当初にキーのレスポンスが悪いという問題がありましたが、「デジタルメモを標榜する以上、『持ち運びできます。でも、キーレスポンスが悪いです』はあり得ない」と、担当者に発破をかけました。当時のノートパソコンを見れば、起動に1分以上かかったりキーレスポンスが悪かったりするのは当たり前でしたが、それはそれ、これはこれ。比較しても意味はないんです。

 先ほど申し上げた「1つの解」というのはつまり、「市場はニッチで狭くても、そこにいる人たちが100%満足する商品を提供する」ということ。実際、ポメラが証明したように、ターゲットさえ明快になれば、お客様が満足する造り込みというのは十分可能だと思っています。

 もちろん、ポメラ以前から造り込みはやってきました。ただ昔は、たくさんの機能を載せることを造り込みだと勘違いしていました。それがポメラ以降、不要な機能を切り捨てることも造り込みの1つと思うように変わったんです。(談)