メトランの創業者・代表取締役のトラン・ゴック・フック氏
メトランの創業者・代表取締役のトラン・ゴック・フック氏

 日本企業の医療機器事業では、オリンパスの内視鏡事業が世界的に有名だ。特に最近は、ソニーとオリンパスが2013年4月16日に、医療機器事業を手がける合弁会社、ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(東京都八王子市)を設立し、ソニーの画像処理技術とオリンパスの内視鏡技術を融合して、病院の外科医などが使いやすい内視鏡応用機器の開発を目指す計画が発表されたことが注目された。

 日本全体では、医療機器事業はまだ発展途上にある。日本の製造業の2本柱である自動車産業と電機産業では、電機メーカー各社の事業不振が続き、事業内容の再構築を迫られている。2本柱の一方である電機産業の不振は、電子化が進む自動車産業にも影響を及ぼしかねない。その中で、電機大手のソニーは、医療機器事業に力を入れ始め、事業再生を図る動向が注目を集めている。

 日本では、まだ発展途上の医療機器事業は行政などが育成策を練っている。例えば、経済産業省は厚生労働省、文部科学省と連携し平成22年度(2010年度)から「『課題解決型医療機器等開発事業』実証事業」を推進することで、日本企業が医療機器事業において足場を築けるように支援を続けている。日本の医療機器産業では、医療機器の輸入超過が続く。経産省商務情報政策局ヘルスケア産業課は、この事態を「日本が誇る中小企業を含む製造業の“モノづくり技術”を生かしきれていないため」と分析する。

 最近でも、経産省商務情報政策局ヘルスケア産業課は2013年3月29日に、平成25年度(2013年度)の「課題解決型医療機器等開発事業」実証事業の公募を始めた。その公募の際にも「医療現場が有する課題・ニーズが、ものづくり現場に届いていない問題の解決が必要」と指摘している。

 埼玉県川口市に本社・工場を構えるベンチャー企業のメトランは、新生児用・小児用の人工呼吸器という医療機器分野では、世界的な先進メーカーとして有名だ。1984年創業の同社は、当時、学術文献などで公表され、病院の医師などの関係者も基本原理としては知っていた高頻度振動換気法(HFO:High Frequency Osillation)を、実際に使える技術として仕上げて人工呼吸器を製品化して、世界中にその名が知られるようになった。

 そのメトランの創業者 兼 代表取締役は、ベトナム出身のトラン・ゴック・フック氏だ。現在は、日本に帰化し、日本名の新田一福を名乗っている。フック氏によると、「日本の製品開発者の多くは困難な技術にあまり挑戦したがらない」と指摘する。この姿勢は、メトランが創業した「1984年当時から今まで、あまり変わっていないのではないか」という。

 日本の製造業各社が新しい成長分野の1つとして医療機器事業に注目し始めた現在、医療機器事業におけるメトランの挑戦の経緯から学べることは少なくないだろう。同社代表取締役のフック氏に、人工呼吸器事業を始めた経緯や苦労談などを聞いた。