ソニーとオリンパスの医療合弁会社、ソニー・オリンパスメディカルソリューションズがいよいよ始動しました(関連記事)。同社では、3Dや4Kといった映像技術を駆使した、次世代の外科用内視鏡の開発を手掛ける計画です。

 エレクトロニクス技術やICTは今、医療の分野に大きなイノベーションをもたらそうとしています。それは何も、ソニー・オリンパスが手掛ける次世代の外科用内視鏡のような先端医療機器だけの話ではありません。例えば、我々にとって身近であり、広く普及している医療機器の一つである血圧計。その現在の姿が決して完成形ではないことは、最近の開発事例からも容易に垣間見ることができます。

 特に筆者が注目している血圧計のイノベーションは、カフ(圧迫帯)を使わずに、非接触(あるいは非侵襲)で測定できるようになることです。糖尿病患者のように血圧を常に管理しないといけない人でも、「面倒臭さ」が原因で、なかなか測定を続けられていないのが実態だという話をよく聞きます。カフを使わない血圧測定が本格化すれば、こうした「面倒臭さ」の一端は取り除けますし、日々の健康管理のスタイルも大きく変わる可能性があります。

日本大学

 日本大学が開発している、指を触れるだけで計測可能な血圧計は、その一つの技術と位置付けられます。2012年11月にドイツのデュッセルドルフで開催された世界最大の医療機器展「MEDICA 2012」では、同大学のブースに国内外の来場者がひっきりなしに訪れ、極めて大きな注目を集めていました(関連記事)。同大学 工学部 教授の尾股定夫氏が開発した「位相シフト法」と呼ぶ技術を使っていると説明しており、この技術については、「Samsung Electronics社が1億円で買収を持ちかけてきた」(同大学の関係者)といった話もあるほどです。

 一方、トヨタ自動車とデンソー、日本医科大学が、2013年3月にパシフィコ横浜で開催された「第77回日本循環器学会学術集会」で展示した技術も、血圧測定のスタイルを大きく変える可能性を秘めています。具体的には、自動車のステアリングを利用して運転者の心電や脈波を測定し、運転中の体調急変の予兆を検出するシステムです(関連記事)

トヨタ

 このシステムの第1の狙いは、運転中に突然発生する重症不整脈や心筋虚血発作の予兆を、心電と脈波のデータを基に検出することなのですが、トヨタ自動車などは同システムを日々の血圧管理にも応用できると踏んでいます。そこで今回の展示では、ステアリングに埋め込んだ脈波センサで取得したデータを独自の手法で解析することで、推定血圧を算出するデモも披露していました。「脈波の伝播時間と複数のデータベースを組み合わせることで、血圧を推定できる」(トヨタ自動車)と説明します。この技術を利用すれば、自動車を毎日運転する人なら、ステアリングを握るだけで日々の血圧を測定・管理できるようになるというわけです。

 このトヨタ自動車などの技術のように、解析方法の工夫次第で脈波から血圧を推定できるということであれば、さらなるイノベーションの可能性が脳裏をよぎります。例えば、富士通研究所は2013年3月、顔の動画からリアルタイムで脈拍を測る技術を開発したと発表しました(関連記事)。スマートフォンやパソコンなどの内蔵カメラやWebカメラで撮影した顔の動画を、独自のソフトウエアで分析することで脈拍数を算出する技術です。

富士通

 つまり、この富士通研究所の技術に、さらに1段階、トヨタ自動車などのシステムに採用している脈波→血圧の変換解析技術を組み合わせれば、顔の動画から血圧を推定できる可能性があるのではないかと考えられるわけです。すると、洗面所の鏡にカメラを埋め込んでおけば、毎朝鏡に向かうだけで血圧を管理できるというスタイルも実現するわけです。なお筆者は、富士通研究所の記者会見時に、そのような開発も進めているのかを質問したところ、「あらゆる可能性を含めて検討を進めている」(同社)との回答でした。

 もっとも、これらの技術には精度の点など多くの課題もあり、実用化する上ではさまざまな議論も必要かと思います。それでも、こうしたイノベーションへの期待は確実に高まってきています。「医療の分野はこれまで、限られたプレーヤーで開発が進められていた。しかし、さまざまな技術を持つ多くの企業が本気で医療について考え始めたら、大きなイノベーションが間違いなく起きる」(ある医療関係者)といった声を、最近あちらこちらで耳にします。血圧計一つを取って見ても、筆者はその言葉の意味が分かる気がしています。

 最後にお知らせです。2013年4月26日に、デジタルヘルスAcademy「医療機器分野参入に向け、薬事法の基礎と実践、最新動向を学ぶ」を開催します。プログラムの一つとして、あるものづくり企業(東京都大田区)が、医療機器分野への新規参入を目指し2012年に医科向け電子血圧計の薬事第3者認証を取得した際、薬事承認を取得するまでにどんな苦労を経験し、掛かった時間・コストはどの程度だったのかなどについて、担当者に語ってもらいます。

 また、2013年5月28日には、デジタルヘルス・セミナー「中国で急拡大する医療機器市場で好機をつかめ ~新規参入企業×中国進出:市場・規制動向から具体事例まで~」を開催しますし。医療分野への新規参入企業にとって見逃せない中国市場について俯瞰できるセミナーです。ご関心がありましたら、ぜひご参加ください。