半導体業界では、毎年多くのデータがランキングの形で公開されています。米IC Insights社や米IHS iSuppli社、米Gartner社などの調査データが広く知れわたっており、さまざまな場面で活用されています。筆者は過去にこうした調査会社の担当者と話す機会がありましたが、いろいろと質問してみると、調査会社や担当者によって、同じ質問に対しても答えがまちまちだったりします。調査データの数字も各社によって微妙に違います。その差は本当に微妙なのですが。

 半導体の世界というのは非常に多くのファクトが絡み合っており、本当のところは誰にも分からないのかもしれないと筆者は常々思っています。調査データに出てくる数字が、例えば在庫を含めた数量なのか、本当に実製品で使われている数量なのか、といったことは分かりにくい。そもそも、その数字が推定なのか、確たる証拠に基づく真実なのか、という違いも分からない。

 半導体製品の種類は星の数ほどもあり、その出荷個数や在庫数を世界規模で集計しようとすれば、実はその実態は捉えようがありません。その数字には為替レートや貿易関税、手数料といった、さらに混迷を深めるような要因も絡んできます。しかも、世界には残念ながら不届きとしか表現しようのない業者が存在しており、リ・パッケージ(廃品チップをパッケージし直すこと)をして売る“偽装業者”もいると聞きます。こうした“グレーな”市場までを含めると、半導体業界における流通(サプライチェーン)の実態は専門家でさえ分からないでしょう。

 こうした背景を踏まえると、各種のランキングなどの数字はあくまでも上澄みの“参考値”として捉えるのが懸命だと筆者は考えます。ただし読んで字のごとし、上澄みは“澄んでいる”だけに、上位にランキングされる会社に関するデータは真実に近いでしょう。ただしそうした数値についても、実際は調査元によって微妙に数字が異なっているのが実情です。

 半導体産業に限った話ではありませんが、結局は世の中のすべてが刻一刻と止まらずに動いている。ですから、静的な「真の数値」なるものは存在しないともいえる。例えば、変動するパラメータの代表格である為替レートについていえば、調査元が採用する値が1%変わるだけで、調査データの数字は大きく変動します。半導体は、用途が極めて幅広く、信頼性のグレードや製造地域など、パラメータが実に多い産業です。そうした産業に関する数字は、原理的に「参考値」でしかあり得ないのかもしれません。