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 「あと1年しかないよ・・・」。

 自動車業界の関係者が焦っています。電気自動車(EV)やプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)などの電動車両で、無線で電力を伝送する「ワイヤレス給電」を実用化する時期が迫っているためです。

 「2年以内に実用化する」――。

 日産自動車が、「2年以内」に発売するEVにワイヤレス給電技術を採用すると2012年4月に宣言したのがきっかけでした( Tech-On! 関連記事1)。それから1年が過ぎて現在、2013年4月。日産自動車の発表は議論が白熱しているワイヤレス給電の標準化に向けた駆け引きのようにも映りますが、いずれにしても発売に向けたカウントダウンは着実に進んでいるのです( Tech-On! 関連記事2 同3 同4)。

安全性の確保が急務に

 自動車業界の関係者が焦っている理由は、実用化する際に欠かせない“約束事”がまだきちんと整備されていないためです。極端なことを言えば、実用化の際に「標準規格」は必須ではありません。全世界で拡販することを考えず、特定の地域のみで販売するだけなら独自規格で構わないためです。ですが、周波数制度の動向や人体防護の規定など、法律や国際機関による取り決めは守らなくてはなりません。

 例えば、ワイヤレス給電に関する安全性の課題は大きく三つあると言われています。(1)電磁界による人体曝露のリスクと(2)異物の挟み込みなどによる発熱・発火のリスク、(3)埋め込み型の医療機器へ及ぼす影響、です。この他、他の機器に与える電波干渉も大きな課題になっています。

 「これ、ロンドンで実証実験に使っているものと同じものなんだ」――。

 2013年1月に米国ラスベガスで開催された展示会「2013 International CES」で、米Qualcomm社のEV向けワイヤレス給電技術「Qualcomm Halo」を取材させてもらったときの説明です( Tech-On! 関連記事5 同6)。担当者によれば、ロンドンでの実証実験では、周波数が40kHzの電磁波を使っているとのこと。40kHzは、日本では電波時計の信号周波数として割り当てられているため、国内で動作させることはできません。

 このような電波法の規定を含めて、2013年は実用化に向けた準備を急ピッチで進めることが開発における最優先事項になりそうです( Tech-On! 関連記事7)。

 実証実験の話題を書きながら気付きましたが、「EVでワイヤレス給電による電力伝送に成功しました!」といった内容の発表を最近あまり聞かなくなったように思います。2011~2012年ごろは、各社が競うようにアピールしていたのをよく覚えています( Tech-On! 関連記事8 同9)。こうした事実も、ワイヤレス給電が単なる実証実験の段階から一歩進んだことを示しているのかもしれません。