「最近、急に発熱して動作が停止する案件が目立ちます」。

 熱設計技術についてのNEアカデミーでいつも講師を引き受けていただいている国峰尚樹氏(サーマル デザイン ラボ 代表取締役)に先日、このような話を伺いました。電子製品などの熱設計をコンサルティングする同氏の元には、各種機器の開発案件が持ち込まれています。電子機器の最近の傾向を熱設計の視点から知りたいと思い、同氏に質問した答えが冒頭のコメントでした。

 “急に発熱”する開発案件にも傾向があり、FPGAを搭載しているケースが目立つそうです。FPGAが局所的に熱くなったり、FPGAの熱を受けた周辺部品が動作しなくなるとのこと。なぜ、FPGAなのでしょうか…。FPGAの製造プロセスに、電子機器の開発側の想定以上に最先端のものが使われていることに起因するというのが、国峰氏の見立てです。

 FPGAの製造には多くの世代の半導体プロセスが使われています。数世代前の半導体プロセスで製造されるFPGAもあれば、28nm世代といった先端技術を使われるFPGAもあります。最近ではCPUコアを積んだFPGAもあります。最先端世代で製造されたFPGA内にあるCPUコアをブン回すような使い方をすると、それなりの放熱対策を施していない場合、CPUコア部が局所的に発熱して“動作停止”に至る可能性も考えられます。

 FPGAは今や、民生機器や放送機器、医療機器、車載機器などで使われています。FPGAの価格低下や開発環境の充実などにより、FPGAを活用する開発現場の裾野が広がる一方で、新規ユーザー向けに最先端製品の取り扱いを指南するサービスを拡充する余地もありそうです。

 実は最近、熱とは異なる理由で“急に動作が停止”する話を電子部品メーカーから聞きました。対象となる機器はスマートフォン。電源周りの電子部品を開発する技術者によれば、急に動作が停止しかねない問題により、スマートフォンに向けた電子部品の開発が難しくなったそうです。

 スマートフォンに搭載されるSoCは昨今、マルチコアが当たり前になるなど、処理能力は大きく向上しました。高い処理能力を発揮しようとすると、それなりの電力を消費するので、相応の電源回路が必要になります。ただし、スマートフォンの実使用状況を考えると、SoCを最大の処理能力で使うことはまれでしょう。そのため、スマートフォンの電源を設計する際、SoCは平均消費電力で動作すると想定するとのこと。

 あくまで平均ですから、実際の電源回路は平均を上回る電力を供給できるように余裕をもって設計することになるでしょう。ですが、部品コストを抑えようとすると、こうした“余裕”をできるだけ削ることになります。余裕がなくなると、例えば「処理の重いアプリを複数同時に動かす」などSoCをフルに動作させたときに電力供給が追い付かず、動作停止となってしまいます。スマートフォン・ユーザーの使い方も千差万別なので、端末メーカーにとっても余裕の設け方が難しいと思われます。「どこまで余裕を持たせるか」は端末メーカーごとに異なるため、スマートフォンの電源向けを想定した電子部品のラインアップを増やさざるを得ません。

 この電子部品メーカーによれば、パソコンの世界ではこうした事態は起こりにくいとのこと。マイクロプロセサで高いシェアを持つ米Intel社が、手厚い設計指針を出しているからだそうです。スマートフォンにおいても、共通の設計指針に則って効率的に開発したいというのが、電子部品メーカーの本音でしょう。ここでも前述したFPGAのように、設計指南サービスが成り立つ可能性があります。

 設計指南サービスの担い手は誰になるのでしょうか。半導体メーカーでしょうか、OSメーカーでしょうか、設計コンサルタントでしょうか。EMSや半導体商社も可能性があります。ちょっと注目してみたいところです。