水晶を共振させてその周波数からクロック源や基準周波数をつくるタイミング・デバイスが水晶発振器。これに対してシリコン(Si)を使うのがシリコン発振器だ。これまでタイミング・デバイス市場で1%程度のシェアをもつに過ぎなかった海外のシリコン発振器メーカーが、スマートフォンなど出荷台数が多い機器を本格的に狙い始めた。高精度品の製品投入も計画する。水晶発振器市場といえば日本の電子部品メーカーの牙城。これをシリコン発振器は崩すのか。

 シリコン発振器は、スマートフォンに搭載されている民生用の加速度センサと同じMEMS(微小電子機械システム)デバイスである。Siウエハーに半導体製造技術(マスク露光とエッチングなど)で振動子を形成、これを基準周波数とするCMOSのクロック回路を構成する。米国のベンチャー企業である米SiTime社が2006年に製品化して注目を浴びるようになった。水晶発振器と比べて、原理的には安価かつ小型にしやすい一方、周波数の安定度を電子回路で補う必要がある。

図1:シリコン発振器の例
図1:シリコン発振器の例
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 安くしやすいのは、大口径のSiウエハーで大量生産できること、安価な樹脂(プラスチック)パッケージを採用できることによる。シリコン発振器は、直径が200mmなどのIC用の単結晶Siウエハーから数百μm角のチップを切り出し、LSIで大量に使われている汎用樹脂パッケージに封止する。このため、数十mm角の水晶から数mm角の水晶片(振動子)を切り出し高価なセラミック・パッケージに収める水晶発振器よりも、量産が進めば安価にできる。さらに、チップそのものを小さくできるのでパッケージを小さくしやすい(図1)。

 ただし、周波数変動が水晶に比べて桁違いに高いSiを振動子とするため、変動を抑える回路を組み合わせても、現在のところ水晶発振器を完全には置き換えられていない。代替が難しかったのが、温度変化による周波数変動を抑えたTCXO(温度補償回路付き水晶発振器)と、さらに安定度の高いOCXO(恒温槽付き水晶発振器)だ。このうちTCXOと同等の安定性を狙った製品をSiTime社は2014年にも市場に投入すべく開発中である。

 温度補償回路を持たない水晶発振器だけなら、タイミング・デバイス市場の数%程度だが、TCXOまで含めれば数十%になる。スマートフォンや携帯電話機など出荷台数の多い民生機器に使われている水晶発振器のほぼすべてとなるためだ。およそ70年の歴史をもつ水晶発振器は、7年目の新参から大きな挑戦を受け始めた。