タイ人にとって分かりやすい工場

 ハイテク自動車部品の現地化も加速しているように見える。日産系の変速機大手ジヤトコはタイに子会社「ジヤトコタイランド社」を設立、2013年夏からCVT(無段変速機)の生産を始める(図2)。タイで初のCVTメーカーである。場所はIHIと同じく、アマタナコン工業団地内にある。1300人を新規採用して2014年に年間50万台を生産し、将来的には増築して70万台体制にもっていく計画である。

図2●本格生産に向けて準備中のジヤトコタイ工場
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 CVTとは動力を歯車ではなくベルトで伝える変速機で、精密加工や制御などの高い技術力が要求される製品。燃費効率を高める部品でもあり、タイ初のエコカーである「マーチ」にもジヤトコ製のCVTが搭載された。ジヤトコは三菱自動車やスズキにも納入しており、エコカーである「ミラージュ」や「スイフト」にもジヤトコ製が載っている。タイのエコカーブームによってCVTの存在感が高まっており、ジヤトコは商機拡大のチャンスと見ている。

 しかもタイ政府からハイテク製品と認定され、法人税を8年間免除、9年目以降も半額免除という優遇措置を受けた。設備輸入の関税もゼロだった。タイでは、バンコクを起点にゾーン1から3までの区域に分けられ、バンコクから遠い地点に工場を建てるほど優遇の恩典も大きい。アマタナコン工業団地は「ゾーン2」地区に該当するが、ジヤトコは「ゾーン3」の恩典を受けた。

 ジヤトコタイランド社では工場立ち上げ当初から、鋳造から組み立てまでの一貫生産体制を敷く。平山智明社長は「工場の工程設計は日本と同じですが、自動化率は日本よりも低いです。しかし、品質は日本と同じ水準のものができます」と説明する。工場内にクオリティーテクニカルセンターも2013年中に設立する計画だ。心臓部のプーリーやベルトといった部品もASEAN(東南アジア諸国連合)域内で調達し、同域内での調達率は90%以上になる。

 筆者が訪れた際には、生産ラインで働く中途採用した440人の一部が「リージョナルトレーニングセンター」で必死に研修を受けていた。旋盤を手動で動かし、機械の原理をたたきこまれる他、模擬メインラインも備えていた。CVTは約400点の部品で構成される上に、メーカー別、車種別といった具合に品種が多い。組み付けミスなどが起こらないような訓練も積んでいる。今研修中のメンバーは、今後入社してくる現地社員を指導する役割も担っている。現地人が現地人を指導することで効率的な運営体制も目指す。

 平山社長はタイ工場の運営方針についてこう語った。「タイ人にとって分かりやすい工場を造ることが基本です。その結果、タイ人が失敗しにくく、改善活動をしやすく、習熟しやすいライン構築を目指します」

 タイでは現在、好景気を背景に人材獲得競争が起きている。しかし、こうした工場運営の姿勢が口コミで広がって評価されている上、タイで初のCVTメーカーで働くという「パイオニア精神」や研修で日本に行ける可能性にあこがれて、給料が下がっても転職してくれる人がいるという。