日産自動車がタイで攻勢に出ている。前回述べたように、トヨタ自動車やいすゞ自動車のシェアが落ちているのは、物品税を減税したことなどで市場が急拡大しているエコカー(100kmを燃料5L以下で走る排気量1300cc以下の車)に焦点を当てて、日産や三菱自動車が新商品を投入しているからだ。例えば、2010年に発売した「マーチ」のベースとなっている小型車の「Vプラットフォーム」から派生車の「アルメーラ(日本名ラティオ)」などを続々と投入している。ご存じのように「マーチ」「ラティオ」はタイで生産して日本に逆輸入しているが、タイでは日本以上に人気車となっている。

市場変化を取り込む日産

 日産アジアパシフィック統括会社社長兼日産タイ社長の木村隆之氏はこう語る。「エコカーのセグメントシェアで50%取っています。明確なデシジョン・メイキングとVプラットフォームが市場にマッチした成果だと思います」

 木村氏の発言に解説を加えるならば、日産はマーケティングとコスト削減が得意な会社であり、しかも意思決定が素早いため、その強みを生かして、現地の市場に合った新商品を投入して販売増に至っているという意味である。

 タイの自動車市場の構造を見ると、リーマンショック前の2007年と、洪水の被害から立ち直った2012年を比較すると、大きな変化が起きていることが分かる。2007年の総市場は約63万台のうち乗用車が約17万台で商用車が約46万台だったのが、2012年は総市場が約144万台にまで伸び、乗用車が約67万台、商用車が約76万台だった。5年間で総市場は2.3倍に膨らんだが、それにも増して乗用車は約4倍に成長した。乗用車の中でもさらに細分化してみると、小型乗用車が約14万台から4.3倍の約60万台にまで伸びている。

 減税だけではなく、バンコクなどでは都市化が進み、乗用車を持つ層が増えたり、農村部でも2台目にはピックアップ・トラックではなく乗用車を購入する層が出現したり、タイの経済構造の変化に合わせて市場が変化していることも影響している。そこを抜け目なく、日産が狙ってきているということである。日産の小型乗用車の販売台数は2007年の3500台から2012年は約27倍の9万7000台にまで増えた。

 Vプラットフォームについても少し説明すると、日産がルノーと共同で開発した小型車用のプラットフォームで「マーチ」に初めて採用された。2013年までにグローバルで100万台を売る計画という。Vプラットフォームのタイでの部品の現地調達率は90%、中国やインドなどから6%を調達している。注目すべきは、車体用として、高張力鋼板(ハイテン材)に代わる剛性が高くて軽量のスチールを現地で開発・調達していることだ。ハイテン材は新興国では調達できないため、日本からの輸出で対応していると、コスト競争力が低下する。グローバル戦略車として、材料調達に制約があっても生産できるように設計を工夫した。

 エンジンも4気筒から3気筒に小型化し、燃費効率はガソリン1Lで約26kmとガソリン車ではトップ級だ。こうした工夫の結果、「マーチ」はタイで初の「エコカー」と認定された。