ビジネス再生の新ルール、J. B. ウッド/トッド・ヒューリン/トーマス・ラー著、2,100円(税込)、A5判、240ページ、日経BP社
ビジネス再生の新ルール、J. B. ウッド/トッド・ヒューリン/トーマス・ラー著、2,100円(税込)、A5判、240ページ、日経BP社
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 リーマンショックという突然の大不況に見舞われて、米国の大企業は徹底的にコストを見直した。聖域だった企業向けITシステムも精査され、たいていの機能が安価なクラウドサービスで置き換え可能だということが明らかになった。企業は、自社でITシステムを所有して管理・運用する高コスト体質から脱却し、必要なときに必要な分だけITサービスを利用する新しいパラダイムへと移行した。そして、これにより有力なシステムベンダーの多くが収益を悪化させたのである。

 米国のIT業界団体、TSIA(Technology Services Industry Association)のCEOを務める筆者らは、クラウドサービスの台頭だけでなく、米Apple社の「iPhone」など新しいコンシューマー機器の登場にも言及しながら、このビジネスルールの大転換を詳しく描き出している。そして、Apple社や米Google社、米Amazon.com社など成功した新ビジネスに共通するのは、ユーザーの目線に合わせた継続的な価値の提供だと分析する。

 これまでのシステムベンダーは客先の庭に木を植えたら、そこで代金をもらって、さっさと別の会社に回った。これは手離れが良く利益率の高いビジネスではあったが、植えた木が成長して花や実をつけるまでのシーン、いわばシステムが一番利用されて、さまざまな課題に直面するシーンには立ち会わなかった。クラウドサービスの時代には、こうした実際のビジネスシーンで発生する多種多様なユーザーニーズをよく理解して、きめ細かくソリューションを提供できる企業だけが生き延びる。そして、それをマネタイズするためには、安くて魅力的でなおかつシンプルなサービス、好みの曲を99セントで提供するApple社の「iTunes」のようなマイクロトランザクション・サービスを開発することが重要だと説く。

 苦境にあえぐITベンダーに対する助言に満ちた本書だが、この現象は本質的にIT産業に特有のことではなく、いずれは製造業の多くもこの流れに飲み込まれるだろうと警告しているところが不気味である。

 考えてみれば、所有はしているものの稼働率が極度に低い自家用車なども、レンタカーやカーシェアリングに徐々に移行するかもしれない。現状のレンタカーの不便さが、ITやモバイル端末を使ったきめ細やかなサービスによって解消されれば、所有から利用への大転換は必ず進むに違いない。

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