前回は、トヨタ自動車とニコンという2社のXVL活用事例を通じて、DRによる開発プロセス改革のポイントを考えた。これを受けて、今回はブラザー工業による後工程でのDR活用の事例を紹介していこう。

ブラザー工業における手戻り削減活動

 どれほどDRをしっかり行っても、さまざまな事情により設計変更は起きてしまう。だが、後工程でDRを活用して設計変更を正確に把握し、手戻り削減に結び付けることに成功した企業がある。日本を代表する老舗製造企業の1つである、ブラザー工業である。

 1908年にミシン修理業の会社として出発した同社は、主力事業のプリンタや複合機、さらには家庭用ミシンや工業用ミシン、工作機械、通信カラオケ・コンテンツ事業など、幅広い事業をワールドワイドに展開している。図1に同社の主な製品を示す。

図1●ブラザー工業の主要製品
図1●ブラザー工業の主要製品
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 同社は顧客に高い価値を届けるために、商品企画・研究開発部門の“デマンド・チェーン”と開発設計・生産技術部門の“コンカレント・チェーン”、そして、製造・物流・販売・サービス部門が担う“サプライ・チェーン”という3つのバリュー・チェーン全てを連携させる、『ブラザー・バリュー・チェーン・マネジメント(BVCM)』という独自のマネジメント・システムを構築している(図2)。これは、顧客の求める価値を選択し創造して、それを顧客に伝えていこうという活動である。

図2●ブラザー工業におけるXVL導入実績
図2●ブラザー工業におけるXVL導入実績
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 このBVCMによる活動の一環として、同社では2007年頃から全社レベルで100本以上のXVL製品を導入し、社内のあらゆる部門で3Dモデルを共有することにより、バリュー・チェーンの強化を目指してきた。さらに、そうやって3Dモデルを共有するために、製品設計から部品設計、金型設計、金型製作、成形評価に至るまで、幅広い工程で無償3Dビューワの「XVL Player」も活用している。

 急速にグローバル化した同社の課題の1つは、複数の国の複数の部門が協調して設計製造を進める上で「いかにITの力で組織間の距離を縮めるか」だった。特に組織間でCADシステムは異なっており、3D情報の共有は厄介だった。そこで軽量なXVLを導入して3D情報の共有を促進するとともに、帳票やサービスマニュアル、パーツリストの作成に軽量XVLを活用してきたのである。

 こうした展開の中で同社の部品技術部が取り組んできたのが、製造部門と生技部門、そして金型と成形部門の作業をフロント・ローディング、すなわち前倒しすること(図3)。この結果として、後工程での手戻りが大幅に削減されたのである。

図3●ブラザー工業におけるフロント・ローディングへの挑戦
図3●ブラザー工業におけるフロント・ローディングへの挑戦
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