日経エレクトロニクス

「ユーザーの声を聞く」のはいいことなのか、悪いことなのか

大森 敏行=日経エレクトロニクス
2013/04/05 05:00
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 「そんな記事は読者は求めていない」。日経エレクトロニクスの編集会議では、記者の企画提案に対してたまにこのような意見が出ることがあります。読者アンケートの結果から見て、その企画で記者が書こうとしている分野にニーズはない、というのです。

 確かに、読者が興味がない分野の記事に注力するのは無意味なことに思えます。一方で、「顧客は自身の真のニーズに気付けないことが多い」というのも、また事実です。

 T型フォードで「大衆車」という全く新しい分野を切り開いたHenry Ford氏が、「もし私が顧客に『何が欲しいか』と尋ねていたら、『もっと速い馬』だと答えただろう」と語ったという逸話はあまりに有名です。「Steve Jobs氏がiPhoneを開発できたのは、顧客の声を聞かなかったからだ」という意見もよく聞きます。書籍「イノベーションのジレンマ」には、既存顧客の声だけを聞いて持続的イノベーションを続けていた企業が、新しい破壊的イノベーションを起こした企業に敗れ去った事例が数多く紹介されています。

 現実には「ユーザーの声を取り入れたからこそ成功した製品」も「ユーザーの声を無視したからこそ成功した製品」も両方あるのでしょう。重要なのは「ユーザーの声を聞く、聞かない」といった表面的なことではなく、製品を開発する側の「覚悟」ではないでしょうか。

 「製品を通してこういう価値を提供したい」という軸を持っている開発者であれば、ユーザーの意見を基によりよい製品を提供できるはずです。要は、開発者が製品の責任を引き受ける覚悟を持っているのです。

 一方、そうした軸を持たない開発者は、ユーザーの意見を吟味することなく、そのまま製品に取り入れているように見えます。製品の責任を取る覚悟がなく、決定の責任をユーザーに押し付けている。残念ですが、そのように感じられる製品もあります。

新しい挑戦が必要な時代

 上に書いたようなことをぼんやりと考えていたとき、興味深い記事を読みました。日経ビジネスオンラインの「シェア争いを捨てて『僕らが狩りに出る理由』」(著者は河野章宏氏)という記事です。

 この記事で河野氏は、「シェアを増やす」という発想には重大な欠陥があると指摘しています。それは「マーケット全体が大きくならない限り、シェア争いは底の見えない消耗戦」(同記事)だということです。なのに、なぜ企業はシェア争いに走るのか。答えは「同じ業界の中で他社が既に持っている縄張り(=お客さん)をかすめ取るほうが『楽』だから」(同記事)。

 シェア争いよりも重要なのは、新規顧客の開発です。これを河野氏は「円の外に狩りに出る」と表現しています。新市場を作るのはシェアを上げることよりもはるかに大変ですが、今後はそれができる企業だけが残っていくのでしょう。

 編集会議での「そんな記事は読者は求めていない」という発言に私が軽い抵抗を覚えたのは、「既存の読者しか相手にしない」という匂いを感じたからかもしれません。もちろん、言った人にはそのような意図はなかったと思いますが。

 こうした意味で、日経エレクトロニクスの二人の記者が始めた新事業「日経BP半導体リサーチ」にはとても期待しています。半導体に携わる企業向けの情報サービスです。私の席はちょうどこの二人の隣なので、新事業の立ち上げに奮闘しているのを目の当たりにしています。私も、このような新規顧客開発をもっとしていかなければ、と気を引き締めています。

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