この4月からサービスを開始した半導体関連の情報サイト「日経BP半導体リサーチ(SCR)」では、「清水洋治の半導体産業俯瞰」というコラムを連載しています。

 清水氏は某半導体メーカーに所属しながら、さまざまな機器を分解し、これまでに5000以上の半導体チップを開封・分析してきました。その狙いは、分解を通じて「半導体市場の現状を正しく理解すること」にあります。外部の調査会社から入手したレポートなどでは、本当のことは分からないと清水氏は言います。

 チップを開封し、表面の回路パターンを観察すると、自社と他社の設計力の差がはっきりと分かるそうです。これまではメーカーごとにチップに搭載されているCPUコアが異なり、単純に比較することが困難でした。ところが今や、ほとんどのメーカーがチップにARMコアを搭載するようになりました。同じRTLで、しかもTSMCなどの標準的なプロセスで製造したチップが増えたことで、直接的な比較が可能になっているそうです。

 実際に比較すると、海外メーカー品に比べて、清水氏が所属する国内の某半導体メーカーが設計したARMコアの面積はほぼ1/2になっていることが確認されたそうです。回路面積が小さいため、消費電力もほぼ1/2と低く、設計のインプリ(実装)では日本メーカーが圧倒的に勝っていることが明らかになりました。ところが、実際のビジネスでは勝てておらず、この原因として清水氏は「市場理解力の低さに問題がある」と指摘しています。それを補う努力が現場の一人ひとりに求められるとのことでした。

 これまで日本には良い技術があるものの、経営者がダメだから勝てないといった見方がありました。清水氏は、経営者のせいばかりではなく、現場の一人ひとりが市場を正しく理解していないのが問題と指摘しています。「社長は現場のことなど分からない。現場が正しい判断を下し、情報を迅速に上げることが重要。例えば、成長市場なのか、撤退すべき市場なのかは現場でも判断できる」(清水氏)と述べています。

 清水氏が次の有望市場として注目しているのが、「動くもの」です。テレビやレコーダーのような機械的要素の少ない「動かないもの」は、ソリューション・キットを買ってくれば、誰でも作れるようになりました。それに対し、自動車やロボットなどは機械的な要素が多く、簡単には作れないし、マネされにくい。同じように、「育てる」という要素を持つ農業分野でも、半導体技術が活躍できる余地は大きいと清水氏は指摘しています。

 清水氏はさまざまな機器やチップの分解を通じて、半導体市場の現状を分析してきました。その一端を今回の連載では紹介しています。ご興味のある方はご一読いただけますと幸いです。また、4月23日(火)13:00~16:00にテクノアソシエーツで清水氏によるセミナーも開催する予定です。詳細は、こちらのページをご参照ください。