タイの自動車市場は日本車がほぼ独占している。生産面でも1997年のバーツ危機を契機に通貨安を利用してタイを中近東やオーストラリアなどへの輸出拠点化しているメーカーが多い。トヨタ自動車も国別収益ではタイがトップ級に位置すると見られる。タイを中心としたASEAN(東南アジア諸国連合)戦略が自動車メーカーの優勝劣敗を決めそうな気配も出てきた。トヨタ自動車や日産自動車、ホンダのタイ事業の現状と課題を以下に述べていく。

「供給能力が勝負を決める」

 タイの自動車総市場は2012年、前年の79万台から144万台に急増した。伸び率は79%である。経済成長に加えて、「ファーストエントリーカーインセンティブ」と呼ばれる初めて車を購入する人や、エコカー(100kmを燃料5L以下で走る排気量1300CC以下の車)の購入者に対して物品税を優遇したことが販売を大きく伸ばした要因だ。

 メーカー別ではシェア1位のトヨタが前年比8割増の約52万台、2位のいすゞ自動車が6割増の約21万台、3位のホンダが2倍の約17万台、4位の三菱自動車が2倍の約13万台、5位の日産自動車が8割増の約12万台である。

 急激な市場の伸びと輸出の拡大に生産能力の増強が追い付かないメーカーが多い。それに最も危機感を募らせているのがトヨタだ。Toyota Motor Thailand社(トヨタタイ)の棚田京一社長は「供給能力が勝負を決める」と語る。その言葉の背景には、絶対台数も伸ばし、圧倒的な存在感を示しているが、乗用車に限っての販売競争では2013年はホンダに負けるかもしれないとの危機感がある。

 タイの自動車市場はこれまで、農産物などの輸送にも人の乗用にも両方に適した「1tピックアップトラック」が市場の中心を占め、その分野ではトヨタといすゞが強かった。特にトヨタの「ハイラックスヴィーゴ」はIMV(Innovative International Multipurpose Vehicle)プロジェクトとして誕生した車で、部品の現地調達100%を目指して低コストで高効率に生産できることを特徴としたトヨタの収益源の1つだった。IMV自体が複数の車型を持ち、タイの他、インドネシアや南アフリカ、アルゼンチンでも生産され、FTA(自由貿易協定)などを利用したグローバル供給を目指す車でもあった。今でもその商品力は衰えておらず、2012年はタイで前年比9割増の約23万台を売ったほどだ。

 しかし、エコカー減税や都市化現象によって小型乗用車の販売が伸びてきた。そこにホンダや日産などが現地生産で攻勢をかけてトヨタのシェアを奪い始めている。トヨタは2014年に乗用車生産のGateway(ゲートウェイ)第2工場を稼働させて能力増強を図るが、日産も同年、ホンダも2015年に新工場を稼働させるなど、日本勢は能力増強競争のフェーズに直面している。