東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕氏

 これまで、長い時間をかけて実現した技術はまねされないことや、日本企業はもうちょっと時間をかけて原理原則に基づいた開発をすべきではないかといった点に触れてきました。では、そうした原理原則に基づいた開発をするにはどうすればよいのでしょうか。実は、そのために私が非常に大切だと考えているのが数学的な発想です。今回の講演の主テーマとなります。

 では、数学的な発想とは何か。これは、2つあります。

 1つが「定義を明確にする」ということなんです。数学はまずは定義から入ります。そこから積み上げていくので、非常に固い土台の上に建物を建てていく感じなんです。明確にした定義を礎に、どういう指標で考えていくかを検討し、それによって整理・分類していくわけです。こうした整理は、数学が一番得意とする分野だと思います。

 もう1つが単純化です。ものすごく世の中のものって複雑ですよね。複雑なものをなるべくシンプルに考えるんです。それは結構現場の人と対立するときもあるんですが、シンプルに考えて大体こうだと、こっち側にこうやって振れると流量が高くなるとか低くなるとかと。

 例えば、その流れがどういうふうに行くかだけを知りたい場合には、シンプルな理解で十分なんですね。数学の言葉を使うと、そういう本質を抜き出したモデリングができる。あと全く違う分野でうまくいっているものを持ってこられるんですよ。そういったところでいろいろ私は、ここ20年ぐらいやってきました。