今回紹介する書籍
題名:看見
編者:柴静
出版社:広西師範大学出版社
出版時期:2013年1月

 今月ご紹介するのは『看見』(日本語訳:見る)という書籍。著者の柴静という女性は、中国でも人気の女性司会者。本書から判断するに、司会者というよりジャーナリストと分類するべきであろう。柴静は1976年1月1日に山西省で生まれ、湖南文芸広播電台で「夜色温柔」、湖南衛視で「新青年」などの司会を務めた後、2001年からは中央電視台で「東方時空・時空連線」「新聞調査」「柴静両会観察」などの司会を経験し、2009年からは本書の題名でもある「看見」というドキュメンタリー番組を担当している。

 彼女のウェブサイトを見ても分かる通り、なかなかの美人。だが、中国のニュースキャスターとしてはやや異色の風貌だ。たとえば、中央電子台のニュース画像を見ていただけば分かるが、中国のニュースキャスターはややきつめの化粧を施しており、甲高い声ではっきりと話すのが普通だが、彼女の場合はメイクもナチュラルなものだし、話す声も比較的低く落ち着いている。一部では「中国一の司会者」と言われることもあり、その人気から彼女の恋愛遍歴を報じた記事も出ているという。また、人気者の常として彼女にもファンとアンチがいるが、それぞれの言い分が面白い。ファンは彼女のことを、「知性を感じる」「抑制が効いている」「人柄がいい」「人の気持ちがわかる」などと感じており、アンチ柴静は「わざとらしい」「名言に頼りすぎ」「自分自身に感動しすぎ」などという。

 本書はそんな彼女が今まで番組を通して関わってきた多くの事件の裏側を書くとともに彼女自身の成長を記し、100万部を超えたベストセラー。本書のヒットは低迷する中国の出版業界の「カンフル剤」とまで言われたほどだ。

 本コラムでは以前にもテレビ番組から生まれたベストセラーを紹介したことがあるが、本書はタイトルこそテレビ番組と同じだが、内容はすべて彼女が何年もかけて書いたもの。実際、エピソードの多くが「看見」を担当する前の「新聞調査」(「新聞」とはニュースのこと)制作時のものであり、その分やや古い話題であるとの感は否めない。しかし、ニュースの中には俯瞰してみて初めてその意味が分かるものもある。本書にも、扱った事件の後日談や事件にまつわる様々なこぼれ話があり、一見単なる「キワモノ」にしか見えないニュースの中に現在の中国社会が抱える課題や深層が現れているものもある。

 本書は柴静が個々の事件を通して中国社会の真相に迫り、またジャーナリズムとは何かを考える。彼女の取材活動やジャーナリズム観を通して、われわれも中国のメディアの裏側を探ってみよう。