ベストセラー「メイカーズ」が示すもの

 21世紀の産業革命が始まると説くクリス・アンダーソン氏の「メイカーズ」(NHK出版)が話題を呼んでいる。同書によれば、インターネット経由で製品を製造する業者もその顧客も低コストで探し出せる現在、製造業がクラウド化し、ニッチ市場向けのグローバル市場で展開する家内工業が生まれるという。ここには、3D-CAD導入で設計がデジタル化すると同時に、3Dプリンタの低価格化により、製造業がパーソナル化しているという背景がある。このような潮流が大きな波となり、すき間市場ではパーソナル製造業が台頭してくるかもしれない。

 ただ、仮にそうなっても、メインストリーム市場に君臨する既存の大手製造業は、しっかりとした棲み分けができるだろう。既存メーカーはメカ・エレキ・ソフトの技術を徹底的に擦り合わせることにより、製品の機能や性能で差別化できるからだ。新興国市場が存在感を増す現在、このような高付加価値製品を低価格で提供することが必須条件となるのも確かだが。

 製品コストの8割は設計段階で決まるといわれる。だとすれば、設計段階で製品品質と製造性まで配慮した3Dモデルを作り込むことは、高付加価値製品を低コスト生産する1つの重要な手段となる。そして、低コスト化とともに求められているのが、売れる製品をタイムリーに市場へ供給する力である。そのためには、設計から製造までのプロセス全体を短縮する必要がある。これに対応するために導入されてきたのが“コンカレント・エンジニアリング”、あるいは“サイマルテニアス・エンジニアリング”と呼ばれる、同期開発のスタイルであった。

 この同期開発では、設計作業と同時に生産の準備を整え、生産部門のニーズを取り込みながら並行して設計を進めていく。設計初期から関連部門よりさまざまな要件を先出しし、問題が発生すれば、関係する設計者が並行して設計を改良していくのだ。設計者は改良の結果を日々3D-CADモデルに織り込む。すべての要件を満足する設計が決定し、出図すると同時に金型の作成に入る、というのが、その理想の姿である。3D設計が一般化した現在、このような並行プロセスを支援するには、3Dモデルを利用した設計のデザインレビュー(DR)が有効だ。

 本連載第11回では、デジタルモデルによる設計の検証のことをバーチャル・デザインレビュー(VDR)と呼んだが、今回はこれを単にDRと呼ぶ。ITとものづくりの力を融合するDRを実現することにより、低コストで品質を作り込み、かつ、納期を短縮する、という矛盾した要求にも応えることができる。今回は、このDRを各社の導入事例とともに紹介する。

 XVLの特徴である軽量性を生かして、設計部門のDRに加えて製造現場をも巻き込んだDRを展開している企業の例に、IHIグループの新潟原動機がある。ニコンも、組織的なDRの実行に取り組んでいる。トヨタ自動車では、大容量の自動モデルでの干渉やクリアランス問題の解決に、このDRシステムが活躍している(もともとXVLのDRシステムは、トヨタ自動車と共同開発したものである)。さらに、XVLには設計の変化点を検出する仕組みがあるが、ブラザーはこれを利用して、後工程で変更点に着目したレビューを行っている。DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)という手法の応用である。

 それでは、このDRにより各社がどのように開発プロセスを革新してきたか、実際に見ていこう。