源流フェーズを例とした概要件定義例

 ここでは、前章で述べた、より大きな課題認識から概要件定義としてブレークダウンする方法を例示する。なお、スペースの都合上、源流フェーズのみを例として記述する。

 源流フェーズは、商品/製番に供する汎用的で堅牢なベース(マスター)製品を開発・試作・検証・確立するための、高度で創造的な業務プロセスで構成される。一般的には「企画部門が主管する企画仕様について、機構、エレキ、制御など要素の源流部門がその基本仕様案を作成。それら仕様を擦り合せてアーキテクチャを体系化し、要素ごとに具体的な設計/試作・検証を行い、総合的な評価・検証(機能検証、原価検証、生産検証)などを数回繰り返して収斂・確立させるプロセス」と表現できる。

 しかし実際には、新しい技術の確立や、そのための新しい知識の収集・習得、また過去のノウハウ・知見などの参照・理解・反映など、非構造的な業務の集まりといった方が当たっている。このように複雑で構造化しにくいプロセスも、図のように情報の生成・管理・参照に関する行為として捉えると、業務要件定義が整理しやすくなる。

[1]「源流の情報生成層」としての概要件定義
(a)業務情報(仕様書、設計仕様書、計算資料、通知書、推進日程など)の生成・編集ができること
(b)業務手順情報(構想手順、設計手順、シミュレーション手順、考え方手順、ノウハウ集など)の生成・編集ができること
(c)それらに関連した資料(各種ドキュメント、通知など)の生成・編集ができること(QMS規格に準じた幾つかの仕組みの管理も、この要件となる)
(d)製品情報(設計モデル、図面、属性情報、シミュレーションモデル・解析情報など)の生成・編集ができること(CAD、CAEなど設計ツールの要件となる)
(e)製品定義情報の生成・編集ができること(部品表、部品属性など)

[2]「源流の情報管理層」としての概要件定義
(f)上記(a)(b)(c)を統合的に管理できること
 例えば、企画の仕様から要素ごとに展開される多数の仕様の定義、版管理と、それら仕様間の整合性の確保、成果物管理、変更管理など(中日程レベルでの進捗管理、課題管理、プロセス管理)
(g)上記(d)の管理ができること
 例えば、設計データ(モデル、図面、部品表)の版管理
(h)上記(e)の管理ができること  例えば、製品定義情報のBOM管理、構成管理、変更管理など(大日程レベルの進捗管理、課題管理、プロセス管理)

[3]「源流の情報参照層」としての概要件定義
 代表例としては、品質や信頼性をつかさどる要件として下記が可能なこと。
(i)商品の稼働現場からの稼働状況の収集・蓄積・分析ができること(M2M)
(j)修理センター、コールセンターからの品質情報、VOC(Voice of Customer)などのフィードバック機能があること
(k)市場からの自社製品機種の品質情報(トラブルの兆候、クレームなど)、VOCの収集・蓄積・分析ができること
(l)市場における競合他社の評判情報収集・分析ができること
(m)社内の文書、実験資料、過去トラブル集、ノウハウ集、設計手順書などから、必要な情報(知識、ノウハウ、知見など)が検索可能なこと

 上記[1][2][3]を、商品化フェーズについても同様に定義する(ここでは省略する)。