いいことをしているのだから分かってくれて当然?

 社会起業家の課題である「いいことをしているのだから分かってくれて当然」という姿勢の話を聞いて、現在の日本メーカーの姿にだぶって感じられました。「いいものを作れば、何も言わなくてもお客様は必ず評価してくれる」。そういう思い込みが、現在の苦戦につながっているのではないでしょうか。

 自社の商品やサービスの背景にあるストーリーを必死にアピールしよう、説明しきろうとしている日本メーカーはどれだけあるのか。まして、マーケティングと称して顧客に欲しいものを聞いてみたり、少々目先を変えた程度で流行のものを後追いしたりする取り組みでは、熱心なファンや応援者を探すのは不可能でしょう。

 こうした状況を変えたいという企業人の声なき声は、HUB Tokyoの取り組みへの反応として現れているようです。スタートして間もない段階で「これから」という状況ではありますが、東京という場の特徴が現れてきているといいます。それは、利用者に企業人の割合が多いということです。

HUB Tokyoのイベントスペース。
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 これは、他の国のHUBにはない特徴。HUBは設立した場所によって活動の色が違ってくるそうで、ロンドンのイズリントン地区にある最初のHUBは社会貢献や環境系の起業家が多く、同じロンドンでもキングス・クロス地区ではよりビジネス色が濃い。米国サンフランシスコは技術系でベンチャーキャピタルの匂いが強く感じられるそうです。

 これは設立した国や都市の持つ歴史や文化などに強く影響を受けるからでしょう。つまりはその場所の生態系の一部になっているということです。東京は起業家の母数が少ないことが、企業人の割合が多い理由ではないかと二人は分析しています。

 それだけHUBのような「秘密基地」を欲している企業人が増えているということかもしれません。HUB Tokyoを利用する企業人は、2種類に分類できると槌屋氏は説明してくれました。

 まず、少し年齢が高めの企業人。新規事業のネタ探しやマーケティングを担当していて、会社では少し変わった人と呼ばれているタイプだそうです。「それは私のことですか」と、少しドキッとしましたが。

 そして、入社して間もない新人の若手企業人です。学生時代に知り合いのベンチャー企業を手伝ったりしていた若者が多いといいます。就職はしたけれど、そのまま会社の色に染まってしまうことに強烈な危機感を抱いているようです。若者の方が社会の変化に敏感で、これから起こるであろう変革に備えておこうと考える人材が増えているのではないかと感じました。

 今、価値の創り出し方、そして働き方そのものが、日本でも世界でも根本的に変わってきています。