日経ものづくりの2013年3月号で3Dプリンタの特集の取材を進める中、私自身も驚いたことの1つが、3Dプリンタでの利用を想定した3Dデータを公開しているメーカーが出てきていることでした。特集の中では、フィンランドNokia社やスウェーデンTeenage Engineering社の例を紹介しました。このような事例が他にもないかと調べる中で目にしたのが、米Apple社がDeveloper向けに公開している「iPhone 5」の図面です。

 この図面は、ケースを設計する際に参考にするものです。同社は、「製作するケースが、iPod、iPhone、または iPad の動作に支障をあたえることなく、これらのデバイスを保護することを確認しましょう」と、ケースを製作する際のデザインガイドラインと歴代のiPod、iPhone、iPadの図面を提供しています(同社のWebサイト)。

 この図面、3Dプリンタに直接使える3Dデータを公開しているわけではなかったので今回の特集では取り上げませんでしたが、3Dプリンタ用データの作成時に活用することはできます。実は、この図面の存在を知ったのは、インクス(2013年4月から社名を「ソライズ」へ変更する予定、Tech-On!関連記事)が運営する3Dプリントサービスのサイト「インターカルチャー」の中でした。このサイトの中では、実際にこの図面を参照しながらケースの3Dデータを作成し、3Dプリンタで造形しています(インターカルチャー内の該当コンテンツ)。

 さて、iPhone 5の図面の中には私にとってとても興味を引かれる情報がたくさんありました。既に知っている方も多いかもしれませんが、単に寸法に関する情報だけでなく、搭載されているセンサ類の搭載位置、その機能から発生するケース形状への制約などの情報があったからです。

例えば、前面上側のフロントカメラの左側にはALS(照度センサ)があると図面には記されています。私はiPhone 5(ホワイトモデル)のユーザーですが、改めて見てみてもALSは判別できません。図面では、ALSの真上だけでなく、ALSの周囲の境界線から45°に広がる領域には障害物があってはならないという注釈も入っています。確かに、自分のiPhoneで保護フィルムを見てみると、フロントカメラの左側は広くなっていました。

 このほかにも、各種センサやカメラ、フラッシュ、コネクタなどの前にどのようなスペースを確保しなければいけないかといった情報が図面には書かれています。このような機能面からくる制約の情報のことを改めて考えてみると、3Dの形状データだけではものづくりするためには不十分だということを思い知ります。

 メーカーが公開した3Dデータをそのまま3Dプリンタで造形するならばともかく、少なからず形状変更することを幅広いユーザーに求めるのは簡単ではありません。3Dデータを作成・編集するツールの整備に加え、形状以外の情報を分かりやすく、確実に伝えることにも気を付けたほうがよさそうです。