2012年末、イオン系放射物の効果を疑問視する声がにわかに大きくなりました。空気清浄機など白物家電に搭載され、「ウイルスや細菌をやっつける」とメーカーが説明する、あの技術です。「プラズマクラスター」や「ナノイー」と表現した方が早いかもしれません。

 きっかけは同年11月の消費者庁の発表です(ニュースリリース)。プラズマクラスターを搭載した電気掃除機に対し、景品表示法違反があったとして、同庁がシャープに措置命令を出しました。「掃除機の中も、お部屋の中も、清潔・快適」といったパンフレット上の言葉が、掃除機の使用時間が空気清浄機と比べて短いのに「部屋中の空気をきれいにするという誤解を招く恐れがあった」というものです。これに対し、同社は直ちに社内で再発防止策などを講じました。ただし、同社は「プラズマクラスター自体の性能は否定されていないし、そのことは消費者庁にも確認した」と強調します。

 しかし、私がこの発表から受けた印象は「プラズマクラスターの性能に疑問符がついたのでは?」というものでした。不謹慎と言われるかもしれませんが、景品表示法違反として指摘された点は「宣伝文句にちょっといきすぎがあっただけ」と、とらえることもできなくはありません。とかく宣伝文句は尾ひれが付きがちです。しかし、同庁の発表資料にあった「性能を有さない」という文言を、本誌の記者としては見過ごすわけにはいきませんでした。

 ちょうどその頃、医学界からプラズマクラスターやナノイーなどの効果を「否定」する論文が発表されました。著者は、国立病院機構仙台医療センターの医師の方です。プラズマクラスターやナノイー自体には「ほとんど殺菌効果が無い」とするこの論文は、Tech-On!のニュースなどにも取り上げられて読者の関心を引きました(Tech-On!の関連記事)。これら2つの出来事により、イオン系放射物の効果の真偽に世間の耳目が集まったというわけです。

 実は、私はそれ以前にイオン系放射物の効果に関する企画を編集部に挙げていました。別件の取材で、ある海外の空気清浄機メーカーが「イオンに効果無し、と断言している」と聞いたからです。これを基に調べ始め、イオン系放射物を「否定」する論文もいくつか発表されていることを遅ればせながら知りました。その最中に、先の2つの出来事が発生したのです。

 マズイ、これは他のメディアに先を越されると思い、私は慌てて否定派、試験機関、メーカーに取材に赴き、それぞれの立場の主張を聞いてきました。その結果をまとめたのが、本誌3月号に掲載した特集2「イオンは殺菌に効くか? メーカーに疑問をぶつけた」です(3月号関連URL)。

 この取材で印象に残ったことが2つあります。1つは、否定派の方から、「他のメディアの記者にも話しているんだけど、結局、『上の判断で記事化を止められた』って言われるんだよね。おたくは大丈夫?」と聞かれたことです。もちろん、「大丈夫だと思います」と答えました。

 もう1つは、技術者の方の真摯な姿勢です。今回、シャープとパナソニックの技術者の方に会うことができたのですが、私が事前に用意した疑問の全てに、丁寧に回答してくれました。質問の中には、「仮に、米国で集団訴訟を起こされたらどうするか」というものまで用意していたのですが、「十分に闘えるだけの技術的裏付けはある。それが無ければ商品化しない」という力強い言葉が返ってきました。

 他のメディアでは読めない記事です。ぜひ、ご一読を。