先日、コンサルティング会社のローランド・ベルガーのコンサルタントを講師に迎えて、自動車部品産業のセミナー「モジュール化、新興市場の拡大に部品メーカーはどう対応するか」を開催しました。当日は100名以上の受講者があり、非常に盛況でした。

 講演では、ローランド・ベルガーから「2020年に向けて伸びる製品・市場」、「自動車メーカーのモジュール戦略と部品メーカーへのインパクト」、「技術の多様化に伴う不確実性への対応」、曙ブレーキ工業から「新興国を中心とした独立系部品メーカーの海外展開」という内容が取り上げられましたが、受講者の興味はドイツVolkswagen社(VW)のモジュラー設計に集中していたようです。

 これまでの日系メーカーのクルマづくりと最も異なる点として、ローランド・ベルガーの貝瀬 斉氏が強調していたのは、「車種の企画の担当者に設計の権限があるのではなく、今後10年にわたって通用するモジュールのアーキテクチャーを設計することが最も重要で、少人数の優秀な技術者がそのアーキテクチャーを決め、車種の開発ではその決めたルールに従う」ということでした。

 同氏は日系自動車メーカーには車両の企画を担当するチーフエンジニアに大きな権限があるのに対し、VWではモジュールを使って編集設計できるような全体の製品アーキテクチャー自体を造ることの優先度が最も高いとします。このモジュール化は部品単位まで徹底しており、エンジンという一つのアセンブリを見ても、吸気モジュール、排気モジュール、過給器などの組み合わせで様々なバリエーションを作れるようになっています。従って、それぞれの部品のモジュールを入れ替えていけば、数多くの組み合わせを生み出せるポテンシャルを持ちながら、全体ではコストの低減、投資の低減、開発期間の短縮、生産時間の短縮などが実現できるというのです。

 問題は、こうしたアーキテクチャーの構想設計に高度な設計力が要求され、そのために初期段階のコストが上がることです。ただし、様々な車種を迅速に、しかも低コストに展開していくためにはこのアーキテクチャーが必要と考え、初期のコスト増はあっても300万~400万台/年の規模で生産をするメーカーでは、従来のプラットフォーム戦略(セグメントごとにプラットフォームを共有化する方法)よりもコストが安くなっていくと試算しています。

 VWはすでにこのモジュール化を5年間かけて開発しており、一部のエンジンなどではその思想が取り入れられていました。さらに、ここにきて「MQB(横置きエンジン用モジュールマトリックス)」と呼ぶプラットフォームへの適用を始めたのです。同社ではMQBのモデルケース(同社ではリード車両と呼ぶ)に7代目の新型「ゴルフ」を設定しており、実際に先に述べたような効果が実際に得られることを確認しながら開発を進め、今後Audiブランドの「A3」、スペインSEAT社、チェコのSkoda社のクルマなどに次々と適用されていきます。

 もちろん、日系自動車メーカーもこうした取り組みを黙って見ているわけではありません。例えば、日産自動車は「CMF(Common Module Family)」という車体を四つの大きなモジュールに分けて、これに電子部品を加えた五つのモジュールによって車両を構成する仕組みを発表しました。また、トヨタも「Toyota New Global Architecture(TNGA)」と呼ぶ新たなプラットフォーム戦略を打ち出しています。こちらはセグメント別のプラットフォームは残すものの、同じプラットフォームを使う複数のクルマを同時に開発する「グルーピング開発」を導入するといいます。

 ただ、ローランド・ベルガーによれば、日系メーカーではこうした取り組みはまだ始まったばかりで、すでに5年間かけて構想を温め、さらに具体的には90のモジュールまで考えているVWとは差があるといいます。クルマの商品性を大きく左右するのは、燃費や安全技術であることは間違いありませんが、モジュール化への取り組みは自動車メーカーの基礎体力を大きく左右しそうです。世界ナンバー1を狙うVWがさらに競争力を高めていくのか、新プラットフォームのゴルフに注目したいと思います。