狙い目は、最先端の工場では製造しにくい、特殊なプロセス技術を用いた製品。例えば、フラッシュメモリよりも桁違いに高速で、DRAMよりも大容量、電源を切ってもデータを保持できるストレージ・クラス・メモリがあります。候補としては、磁性体メモリ(MRAM)、相変化メモリ(PRAM)、抵抗変化型メモリ(ReRAM)など。

 ストレージ・クラス・メモリで用いる新しい材料は、最先端のCMOSプロセスにとっては汚染源にもなりかねない、特殊なもののため、最先端の製造装置で試作することは難しい。逆手に取って、新しい材料に特化した製造ラインにすることで差別化がはかれる可能性があるのではないでしょうか。

 通常、フラッシュメモリやDRAMといった、メモリの製造では、巨額な投資を行い、最先端のプロセス技術を用いて微細化を行います。竹内研究室では昨年、少容量のストレージ・クラス・メモリと大容量のフラッシュメモリを組み合わせた、ハイブリッドSSDを提案しました(リンク先)。提案したハイブリッドSSDでは、ストレージ・クラス・メモリは、必ずしもフラッシュメモリのように極限まで微細化・大容量化する必要はありません。

 我々が開発したシステムでは、断片化したデータや、頻繁にアクセスするホットデータを小容量のストレージ・クラス・メモリに格納することでフラッシュメモリの断片化を抑制し、SSDのシステム全体で、11倍の高速化と93%の低電力化を可能にしました。

 こういった、微細化や巨額な投資に頼らない製品は他にもあるでしょう。例えば、昨年、極めて高い信頼性を要求される車載用のLSIに向けて、デンソーが富士通セミコンダクターの半導体工場を買収しました。また、3次元のLSIの実装やMEMSも特殊な加工技術が必要とされます。

 このように、日本の工場でも、海外の巨大工場では製造しにくい製品を、適正規模で製造する道もあるのかもしれません。3次元加工技術、新材料といった、世界で差異化できる技術がまだまだ日本には残っています。また、ごく小規模な製造を可能とするような、ミニマル・ファブという製造技術の開発も進んでいます(リンク先)。

 ただし、このような小さくても、特殊な製品を製造するには、「何を作るか」が、極めて重要になります。収益を上げられる程度に市場規模が大きく、巨大企業が参入しにくい程度には市場が小さいことが条件になります。スーパーニッチ戦略とでも言うべき、絶妙なマーケティング力、製品の企画力が必要とされるのです。

 日本のシステムLSIの企業は最先端の微細加工の競争には負けました。しかし、規模は小さくてもキラリと光る、そんな工場ができないか。苦しい状況ではありますが、私も諦めずに、粘って「思考錯誤」したいと考えています。