このような場合には差し止め請求は競争を害する。なぜならば、差し止めは侵害製品の販売禁止措置を含むのが一般的であるので、必須特許による差し止め請求においては正当な根拠がないまま製品が市場から排除されるリスクが高まり、ライセンス交渉が不当に必須特許保有者に有利な方向に歪められ得る。ただし、特定の情況下では、例えば、ライセンシーがライセンス受諾を望んでいないときなどは、必須特許でも差し止め請求は認められる場合もある。ECの見解はこのように理解される。

 ここで想起されるのは、Samsung社はスマホ製品価格の2.4%をロイヤルティとしてApple社に要求していたことだ。ECが異議告知書の送付の段階に至ったということは、Samsung社の要求しているこのロイヤルティがFRAND条件を満たしていない、とECが判断したと推測される。というのも、プレスリリースにおける「ライセンスを受けようとする者(筆者注:ここではApple社を指す)がFRAND条件でライセンスを望んでいる」との記載から、Apple社がFRANDライセンス受諾を希望している旨をECが理解していると、うかがわれるからである。

 それでは、ECが妥当なロイヤルティ料率を示す立場にあるだろうか。この点については、EC自身が否定している。ECの質疑応答メモによると、国内の裁判所や仲裁者がそれに適している、と述べている。