ECは必須特許の乱用問題について毅然とした姿勢を堅持

 EU(European Union;欧州連合)競争法の執行機関であるECは、2012年12月21日付けで、Samsung社へ異議告知書の送付に関するプレスリリースを発表した 。それによると、同社が複数のEU加盟国でApple社に対して移動体通信の必須特許に基づいて差し止めを求めている行為は、EUの反トラスト規則で禁止されている支配的地位の乱用に当たるとの暫定的な見解を通知したという。すなわち、これまで疑惑に留まっていたものが、正式に違反として捉えられた、ということになる。一言でいえば、ECは、特許侵害の救済措置として差し止めを求めることは当然考えられることではあるが、必須特許に関する限り、ライセンスを受けようとする者がFRAND(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory;公正で、妥当かつ非差別的な)条件でライセンスを望んでいる場合には、差し止め請求は権利の乱用になり得る、と判断した。

 ECはこのSamsung社に対する調査を、市場支配的地位の乱用行為の規制であるEU機能条約(Treaty on the Functioning of European Union;欧州連合の機能に関する条約)第102条に基づいて2012年1月から自発的に開始していた。残念ながら異議告知書は非公開であるため詳細は不明である。しかしながら、本件に関するECの見解はこのプレスリリースおよびそれと併せて公開された質疑応答メモ、そしてその前日の20日に開催されたEU競争担当委員Joaquin Almunia氏の記者会見からその趣旨が見て取れる。

 今回の問題は、ETSI(European Telecommunications Standards Institute;欧州電気通信標準化機構)が定める第3世代携帯電話(3G)規格であるUMTS(Universal Mobile Telecommunications System)に関する必須特許について、Samsung社が2011年から複数のEU加盟国でApple社に対して特許侵害を訴えて差し止め請求したことに起因している。Samsung社は当該特許を必須特許としてETSIに宣言する際にそれらをFRAND条件でライセンスする約束を行っており、かつ、Apple社は当該必須特許のFRANDライセンス条件について交渉することを望んでいる。