世界各国で係争中の“Apple対Google”スマートフォン(スマホ)特許訴訟。ここへ来て日米欧の特許政策の方向性が固まったようにみえる。標準規格に準拠する上で欠かせない「必須特許」の権利保有者が、特許侵害と考える相手に販売などの差し止め請求することを、欧米当局は「権利の乱用」とみなす。必須特許保有者は、ライセンスを受ける意思がある者に、公平で妥当かつ非差別的な「FRAND条件」で契約しなければならない。当局は、必須特許に関して特許の独占権よりも公共性を重視する姿勢を明確にしていることになる。2月28日の米Apple社日本法人と韓国Samsung Electronics社の東京地裁判決(関連記事)もこの流れと一致している。以下、スターパテントの植木正雄氏が詳説する。(Tech-On!編集)

 ICT(情報通信技術)業界では、2010年来の“Apple社対Googleアンドロイド陣営”で象徴されるスマホ特許係争が続く中、移動体通信関連企業同士の訴訟がいまも後を絶たない。筆者は本連載でApple社対アンドロイド陣営企業(具体的には、台湾HTC社、米Motorola Mobility社そして韓国Samsung Electronics社)、あるいは、米Microsoft社対米Motorola Mobility社の訴訟で争点となっている標準必須特許(以下、「必須特許」)問題について概説してきた(例えば「Apple対Android訴訟、注目は“標準必須特許”」)。

 アンドロイド陣営企業はいずれも必須特許を用いてApple社スマホ製品の輸入・販売差し止めを米国、欧州の裁判所や米ITC(International Trade Commission;国際貿易委員会)で請求している。それに対して、Apple社はその行為を必須特許の乱用だとして反論してきた。この必須特許問題は、Apple社対アンドロイド陣営やMicrosoft社対Motorola Mobility社の訴訟規模が極めて大きいだけに多くの注目を集めており、不公正取引を監視する欧米の行政当局も独自に調査に乗り出していた。その正式な調査結果が、ようやく2012年末から出始めた。欧米の当局は、必須特許に基づく販売差し止めを「特許権の乱用」とみなして認めない方向へ、明らかに政策の舵を切り始めていることが分かる。以下、解説しよう。