「タブレット端末は、今や“スマート”な携帯型テレビだ。画面の大小にかかわらず、ユーザーに映像コンテンツを届ける機器は、すべてテレビだと考えている」。

 米テレビ・メーカー大手のVIZIO社 CEOのWilliam Wang氏はこう語り、消費者にとって「テレビ」の定義が大きく変化していると指摘した。急速な価格下落が進行する薄型テレビ。これまで長らく家庭用映像機器の中心だった「テレビ受像機」は、その主役の座をタブレット端末やスマートフォンといったモバイル端末に譲り渡そうとしている。

 Webサービス業界では今、パソコンではなく、まずはモバイル・サービスから開発を始めることを「モバイル・ファースト(mobile first)」と表現する。モバイル・ファーストの取り組みは、テレビを頂点としてきた映像関連技術の開発にも及んでいる。それを象徴する動画圧縮技術が「HEVC(エッチ・イー・ブイ・シー)」だ。

今後の10年間を支えるコア技術

LTEの伝送帯域でHEVC対応動画
写真は、NTTドコモが開発したHEVCのソフトウエア復号処理技術のデモ。LTEの伝送帯域を想定し、符号化速度10Mビット/秒で圧縮した4K映像を再生した。

 HEVCは、「High Efficiency Video Coding」の略語である。現在、動画圧縮技術で主流になっている「H.264/MEPG-4 AVC」の次世代版となる国際標準技術だ。2013年1月にはITU(国際電気通信連合)の規格名として「H.265」が冠されることが決まった。ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)では「ISO/IEC 23008-2」と呼ばれている。

 HEVCの規格を策定している主体は、動画圧縮技術の国際標準化団体「MPEG(Moving Picture Experts Group)」と「VCEG(Video Coding Experts Group)」の共同チームである。動画圧縮技術の新しい標準規格は1990年代半ばに標準化された「MPEG-2」以降、10年に1度のペースで登場している。2013年はH.264の標準化から、ほぼ10年の節目に当たる年だ。その意味でHEVCは、今後10年間の映像関連機器や映像サービスを支えるコア技術と言える。