フルHDを超える高精細映像でも開発が活発に

 もちろん、大画面テレビ向けの映像サービスでHEVCが使われないわけではない。応用先として期待が大きい分野は、フルHDを超える高精細動画だ。

 例えば、フルHDの4倍の解像度を備える4K×2K(3840×2160画素)映像サービスである。放送での応用や、スマートテレビ向けの動画配信サービスでHEVCを活用するための技術開発が進行中だ。H.264の2倍の圧縮率を実現したことで、放送や動画配信で4K映像を流すサービスが現実味を増している。

 韓国のLG Electronics社は同国の公共放送KBSと共同で、地上デジタル放送で4K映像を流す試験放送の実験に着手した。欧州の地上デジタル放送規格「DVB-T2」を採用し、HEVCを用いて符号化速度35Mビット/秒で圧縮した映像を放送する。

 日本では、日本放送協会(NHK)が4K映像のさらに4倍の解像度を備える「スーパーハイビジョン(SHV)」向けに、HEVC対応の符号化/復号技術の開発を進めている。SHVは、解像度が8K×4K(7680×4320)画素の動画である。2013年2月に同協会は、CATV網を用いてH.264で圧縮したSHV動画を伝送する技術を開発したと公表している。これにHEVCを応用できれば、さらに効率的に伝送することが可能だろう。

再生端末の量産効果がコスト低減を後押し

 既に、4K動画の表示に対応した大画面テレビの製品化は相次いでいる。今後、HEVCに対応したソフトウエアやハードウエアの技術を採用するコストが低下すれば、大画面テレビをはじめとする家庭用映像機器でもHEVCの技術を載せる取り組みが本格化する可能性は高い。

 その点でも、普及が進むモバイル分野でHEVCの採用が広がる動きは大きい。再生端末の市場規模が極めて大きいため、撮影に使うビデオカメラや映像編集機器、配信サービスなどで用いるHEVC対応技術が急速に安価になっていくという期待があるからだ。

 HEVCの符号化/復号処理はH.264よりも複雑だが、「処理の負荷は少し重くなる程度」(標準化に参加した技術者)という。これらを背景にH.264などの現行規格が登場した時よりも急ピッチに普及が進むという見方が強い。これが、地上放送やCATV、衛星放送、ブロードバンドでフルHDを超える高精細動画を家庭に届ける大きなうねりにつながっていく。