モバイル分野で関心が集まる理由は?

 テレビよりも、むしろモバイル関連分野でHEVCに焦点が当たる理由は二つある。

 一つは、モバイル端末向けの動画配信サービスの開発が活況なこと。専用のサービスだけではなく、ケーブルテレビ(CATV)や、FTTH(fiber to the home)を用いたテレビ向け映像サービスの企業も、モバイル端末向けの動画配信サービスを次のメシのタネにしようと開発に力を入れている。米国のCATV事業者が注力する「TV Everywhere(どこでもテレビ)」と呼ぶモバイル端末向けサービスは代表例だ。

 HEVCでは、モバイル端末やパソコン向けのマイクロプロセサ、画像処理用のGPU(graphics processing unit)で進行するマルチコア化に合わせた技術の採用が大きな特徴になっている。具体的には、動画圧縮でのフィルタ処理などでマルチコアによる並列処理に向く技術を採用した。

 モバイル関連での応用が注目を集めるもう一つの理由は、放送、特に地上デジタル放送で大画面テレビに映像コンテンツを届ける際の動画圧縮技術で今後数年、大きな変化が起きそうにないことである。現在、先進国の地上デジタル放送では「MPEG-2」が主流。これから地上デジタル放送ヘの移行が本格化する新興国でも「H.264」の採用が多いようだ。現行の放送インフラを置き換えるコストを考えると、急にHEVCの採用が広がるとは考えにくい。動画圧縮技術の進化をモバイル端末とモバイルサービスが先導する。この構図が、しばらく続く大きな背景だ。