村田製作所が手掛ける自転車型ロボット「ムラタセイサク君」と,一輪車型ロボット「ムラタセイコちゃん」。これらは展示会で,来場者の大きな注目を集める。同社にとっては,蓄電用コンデンサや各種センサ,通信モジュールといった自社部品の性能アピールと同時に,子供の「理系離れ」を食い止める狙いがあるという。
 理系離れ、ゆとり教育が課題として取り上げられることが多い中でも、村田製作所の村田恒夫社長は「新入社員の学力が低下しているとは思わない」とみる。では、どのように技術者の社内育成に取り組んでいるのか。エレクトロニクス産業の将来像をどう描いているのか。日経エレクトロニクスが聞いたインタビューを2回にわたって紹介する。

――理系離れが10年以上にわたって叫ばれている。

むらた つねお 1974年3月,同志社大学 経済学部を卒業後,村田製作所に入社。1989年6月に取締役,1991年6月に常務取締役,1995年6月に専務取締役などを経て,2003年6月に取締役副社長,代表取締役に就任。2007年6月から現職。(写真:栗原 克己)

 理系離れを憂いても仕方がない部分はある。当社では,ムラタセイサク君やムラタセイコちゃんを使った「出前授業」を実施している。ムラタセイサク君については,2005年の発表以降,既に国内250カ所以上を回った。こうした活動を通じて,理科が好きな子供たちをできるだけ増やしたい。

――ここ数年の新入社員は「ゆとり世代」と呼ばれ,学力の低下を指摘する声がある。村田製作所では,新入社員教育として何か力を入れていることはあるか。

 私自身,最近の新入社員の学力が低下しているとは思わない。

 この問題とは別に,当社では2009年度から新入社員教育として大きく変えたことがある。入社して約1カ月間の本社研修が終了した後に,約半年間の工場実習を経験させるようにした。これは,大学卒や大学院卒といった学歴に関係なく,すべての新入社員に対して実施しているものだ。もちろん,交代制勤務もある。

 半年間の工場実習を実施したのには訳がある。我々が手掛ける電子部品では製造ラインが大規模になっているため,短期間の工場実習では「ボタンを押す」「物を運ぶ」といった作業だけになることが多く,しっかりとした実習にならない。やはり村田製作所は「モノづくり」の会社。現場を知らないで研究開発部門に配属しても意味がないという危機感を持って実施することにした。

 工場での勤務は,体力的に厳しい。「音を上げる新入社員もいるのでは」と内心思っていた。しかし,新入社員全員がちゃんと実習を終えて,その後もイキイキと働いているようだ。