日本の電機メーカーが苦戦している背景には、「技術者の適材・適所」を実現できていないことがあると思う。これを解決するには、(1)技術者の生産性の向上および、(2)技術者が能力を発揮できる開発環境の提供、の2点が必要になる。

1991年に松下電器産業(現パナソニック)に入社。1993年に同社 北米上級研究員。1998年に米Sarnoff社に移籍し、IC設計およびソフトウエア技術部長を務める。2001年に伊仏合弁STMicroelectronics社でCMG技術戦略部長。2005年から現職。 (写真:加藤 康)

 ここでいう(1)生産性が高い技術者とは、ユーザーに独自性が高いと感じてもらえる「価値」を創造できるスキルを持った人たちを指す。ユーザーにとっての価値は、単に製品に技術と機能を詰め込むだけでは実現できない。それは、Apple社の製品を見れば一目瞭然だ。自社のブランド力、組織力、ターゲットとする顧客層などを見極め、他社がまねできない製品の技術仕様を作成した上で、その製品を最短期間で市場投入するための技術手段を選択する必要がある。その際、「どこで勝負すべきか」についての“切り分け”の判断が非常に重要になる。

自前主義の落とし穴

 これまで、日本メーカーの中にはすべてを自社で開発しようとする「自前主義」が少なからずあった。

 弊社はデジタル機器のハードウエア/ソフトウエア開発・設計を行うシステム・インテグレーターとして、日本はもとより海外の大手メーカーと協業をしている。こうした中で、日本メーカーが切り分けに失敗し、開発に膨大な金額を掛けながら市場投入のタイミングを逃すケースを見てきた。自前主義にこだわるあまりに、独自性を出せない部分にも自社リソースを充ててしまうのだ。日本メーカーは、開発における切り分けについてもっと工夫してもよいように見える。