自由競争と国際競争は別物

 これと同時に、我々を含む国内メーカーは世界との戦い方を変えないといけない。従来は、主に国内市場を舞台に国内メーカー同士で「自由競争」をしてきた。自由競争とは、ある規律にのっとった中での戦いである。日本メーカー同士であれば、「公正な競争をしよう」という暗黙の了解があった。

 しかし、この自由競争と同じ価値観で海外企業と「国際競争」すると、分が悪い場合が少なくない。日本の常識が海外の常識に合致しないからだ。今後は、自由競争と国際競争とで戦い方を変えるべきだろう。

 日本の文化は「箱庭文化」と言える。箱の中で非常にきれいな盆栽を作ることに長けている。とても美しい。しかも、盆栽を作るためのインフラはすべて整っている。ところが一歩外に出ると、そこには砂漠しかない。どこに道を引き、町をつくるか。地下を掘っても、石油は出てくるが水は出てこない。そうなると、一体どうやって町をつくっていくべきなのかという話から始めなければならない。箱の中とは全く異なる戦略が求められる。

世界のルールを学ぶ

 国内メーカー同士が切磋琢磨していた時代とは、競争のルールも変わる。グローバルな価値観を受け入れ、世界のルールを学ばなければならない。実際、公正な競争を声高にうたう国でもロビー活動を必死に展開し、自国に有利な形に持っていこうとするのは海外では当たり前である。

 日本メーカーは、さまざまな要素技術の擦り合わせが求められたアナログ時代には高い競争力を確保していた。複数の基幹技術を垂直統合でそろえる、いわば「団体戦」だったからだ。これが、デジタル化に伴う水平分業化という構造変化とともに、海外企業によって「個人戦」に持ち込まれて劣勢になった。今後はグローバルな競争の中で、日本が得意な団体戦に戻れるようなフォーメーション(体制)を取っていくことが必要になるだろう。

 何らかの手を打たないと、またしても日本が「先行者不利益」を被ってしまう。半導体や液晶では、日本メーカーが苦労して製造技術を確立した。そして今、半導体などの製造装置は国内というよりも海外で多く売られるようになっている。後発で待っている海外メーカーの方が、安くて良い、しかも技術的に成熟した“枯れた装置”を手に入れたら、物量勝負で日本はかなわない。TDKは、中核技術の製造装置は内製している。例えば、磁気ヘッドの強みはそこにある。決して外には任せない。(談、聞き手は日経エレクトロニクス)