残念ながら、今、自分が大学を卒業したと仮定して、日本には就職したいエレクトロニクス関連の企業がない。インターネット関連の技術者なら米Google社、電子機器を作りたいのなら米Apple社に入りたい、と多くの人が思うだろう。日本人として、この状況は悲しい限りだ。

なかじま さとし 米Microsoft社でWindows 95や同98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフ・アーキテクトを務める。2000年にMicrosoft社を退職し、UIEvolution社を設立、現在もプログラマーとして活躍中。(写真:吉田 明弘)

 日本の会社で面白いと思うのは、例えばユニクロのファーストリテイリングだ。元気があるし、経営のトップがはっきりと戦略を打ち出している。これほど明確なビジョンを示している企業は、日本の大手電機にはないと思う。技術系企業の最終目標は、技術者にとって働きがいのある楽しい職場を提供し、消費者や株主も喜ばすことだ。正直、今の枠組みでは難しい。従来の型にはまらない、新しい企業が生まれてほしいと思う。

スペック重視の開発が元凶

 日本メーカーと長らく付き合ってきて分かったことだが、技術者が持っている「いいものを作ろう」という意志と、「社内で稟議を通さなくてはならない」という現実に大きなギャップがあるようだ。日本では、家電量販店で製品の仕様(スペック)に「○」「×」を付けて優劣を比較される。だから、社内で稟議を通すためにはスペックを重視せざるを得ない。これでは、ユーザー視点に立脚した開発はできない。

 最近、採用が急増しているAndroidについても、「Androidを搭載してどんな製品を開発するのか」といった本質的な議論がなされていないように見える。単に稟議が通りやすいからAndroidを採用する場合が多いのだろう。そうなると、機能がテンコ盛りでコストが高く、もうからない端末ばかりができてしまう。実際、日本メーカーがAndroidを搭載しただけの特徴のない電子機器でもうけるのは無理。この領域で勝てるのは、韓国Samsung Electronics社や米Dell社など海外の大手企業に限定される。