日経BP社と日経エレクトロニクスは、日本の大学の理工系研究室およびベンチャー企業の研究開発を支援するため「NEジャパン・ワイヤレス・テクノロジー・アワード」を立ち上げました。本年5月に予定している最優秀賞発表に向けて、編集部がノミネートした10件の研究を、連載で紹介しています。今回は、北陸先端科学技術大学院大学のターボ等化に関する研究と、慶応義塾大学の電磁界結合技術について紹介します。

北陸先端科学技術大学院大学:ターボ等化の演算量を大幅に削減できる技術

 今や日本のスマートフォンは、LTE対応が当たり前になってきた。IEEE802.11nなど、各種の無線サービスも活用している。ところで、これらの多くが、「OFDM(直交周波数分割多重)」という、多搬送波(マルチキャリア)ベースの技術を利用していることをご存じだろうか。

 OFDMは、中心周波数の異なる複数の搬送波を利用して、シンボルを並列送信するFDM(周波数分割多重)の1種である。隣り合う搬送波の帯域が重なり合うほど近接させても干渉しないように、互いに「直交」させて送信し、周波数利用効率を高めている。送信データを分割する利点は、一つの搬送波当たりのシンボル伝送速度を抑えられること。この特性を生かすことで、移動通信などで大きな課題となる「マルチパス干渉」に対して耐性をもたせることが可能になるのだ。

松本 正氏
北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授
[画像のクリックで拡大表示]

 かつて、携帯電話サービスでは単一搬送波(シングルキャリア)の利用が一般的な時代があった。しかし、この単一搬送波の場合、データ伝送速度が高くなるにつれ、マルチパス干渉などの課題が大きくなってきた。もし仮に、前述のOFDMではなく、単一搬送波で高速に信号を受信しようとする場合は、受信側で信号を等化処理する波形等化器の演算量が膨大になってしまう。例えば、「SCMMSE」の場合、データ伝送速度が10倍になると、復号処理に必要な演算量は1000倍になるという。

 この膨大な演算処理が必要と言われる波形等化処理に、新たな提案を行ったのが、北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授の松本正氏である。松本氏は、NTTドコモに在籍当時から、情報理論を基にした移動通信の等化演算について研究を進めてきた。その研究の中で、膨大な演算処理が必要といわれてきた波形等価処理を、劇的に簡素化できるアルゴリズムを開発、国内外で提案を続けてきた。NTTドコモを退職してフィンランドUniversity of Ouluでさらに研究を深め、現在はその研究内容に、国内よりも海外から高い注目が集まる状況だ。