「もう1号待つべきだったか。いや、むしろベストのタイミングだったか」――。

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が次世代の据置型ゲーム機「プレイステーション 4」(PS4、Tech-On!の関連記事)を発表したのは、ちょうど2013年3月4日号の特集「異種プロセサ活用、待ったなし」の編集を終えた直後のことでした。SCEの発表内容を聞きながら、私の中では「もう1号待ってPS4の話を盛り込みたかった」という残念な思いと、「PS4が発表された直後の号に記事を掲載できたのだからよしとしよう」という満足感がせめぎ合っていました。

 この記事では、半導体メーカーが「ヘテロジニアス」や「ハイブリッド」と呼ぶべきプロセサ構成に向かっていることや、それを使いこなすためのソフトウエア開発環境の整備が進んでいる様子をまとめました。PS4は、そうした動向を象徴する製品といえます。

 PS4のマイクロプロセサは、x86命令セット対応のCPU「Jaguar」を8個と、「Radeon」の次世代アーキテクチャに基づく18コア構成のGPU(演算性能は1.84TFLOPS)を備えるカスタム品です。そのマイクロプロセサが、GDDR5インタフェースで接続した8Gバイトのメモリを主記憶として利用します。

 「結局、パソコンと同じになるってことでしょ」。そうした意見も聞こえてきます。プロセサ内のCPUやGPUの中身については、確かにその通りでしょう。PS4がコンピュータとして興味深いのは、(1)帯域幅が176Gバイト/秒と広いGDDR5メモリをCPUが利用できる、(2)CPUとGPUが同じメモリを共有する、という2点です。

 (1)については、現行のデスクトップ・パソコンの7倍近くの帯域幅が得られることになります。現行のパソコン向けプロセサはメモリ・インタフェースとしてDDR3を利用しており、帯域幅は最大25.6Gバイト/秒です。GPUと共有するとはいえ、帯域幅がこれだけ広くなると、メモリ・インタフェースがボトルネックになってCPUに待ち時間が発生するケースが大幅に減りそうです。

 (2)については、米Advanced Micro Devices(AMD)社や英ARM社が組織した業界団体「HSA Foundation」が提唱するコンピュータ・アーキテクチャ「Heterogeneous System Architecture」に準拠したものになっているとみられます。HSA Foundationは、異なる種類のプロセサが共通のメモリ・コントローラを利用し、統合されたメモリ・アドレス空間で動作する状況の実現を目指し、ハードウエアの要求仕様や各種のソフトウエアの整備を進めています。これを代表するコンピュータとしてPS4が登場することになりそうです。プロセサ間のデータ伝送が不要になるため、CPUとGPUを連動させた処理の効率が大幅に高まることが期待されます。

 本来の位置付けであるゲーム機としての成否にかかわらず、PS4はコンピュータ・アーキテクチャに大きな変化をもたらす尖兵にはなるだろう――。私はそう予想します。3月4日号の特集では、PS4の登場とともに広がりそうな「ハイブリッド・コンピューティング」(あるいは「ヘテロジニアス・コンピューティング」)のインパクトと、それに向けた各社の動向をまとめています。ぜひご一読いただければ幸いです。