今週も先週に引き続き、中国の近代史の教科書をご紹介していく。先週、中華人民共和国建国から朝鮮戦争までをご紹介したので、今週はその後の部分を引き続きご紹介していく。

今回紹介する書籍
題名:義務教育課程標準実験教科書 中国歴史 8年級
編者:課程教材研究所 歴史家庭教材研究開発中心
出版社:人民教育出版社
出版時期:2006年(第2版)

 よく、中国の情報統制の厳しさを示す例として「1989年の天安門事件は中国ではなかったことになっている」ということが言われるが、実際に本書では触れられていなかった。一方、1958年から1960年までの「大躍進政策」の失敗、1966年から1976年までの10年に及んだ文化大革命についてはある程度詳しく説明がなされており、どちらも失敗あるいは錯誤であったことを記述している。特に文化大革命に関しては1課を費やして解説されており、「高齢者を訪ねて文化大革命当時のことを話してもらおう」というコーナーもあり、正しく認識していこうという姿勢は見て取れる。以下に第2単元第7課の「文化大革命の10年」の冒頭部分を紹介しておく。

動乱と災難
 1960年代の中期、毛沢東は誤って、党中央に修正主義(社会主義の本流から外れた考え)が存在し、党と国家が資本主義に再び戻る危険性を感じ、「文化大革命」を起こすことを決定した。1966年、中国共産党中央は「無産階級文化大革命」を展開するとの決定を下し、「中央文革小組(文化大革命を指導する機関。組長は陳伯達、康生、江青、張春橋、姚文元など)」を作り、劉少奇、鄧小平ら資産階級の幹部に対し、誤った闘争を始めた。

 短い段落に2回も「誤る(錯誤)」という単語が出てくるところに、文革に対する評価が現れている。

 文革後、中国社会は平穏を取り戻し、1978年からはいわゆる改革開放政策が始まる。本書では、改革開放の始まり部分で1課を割いて?小平の功績について述べている。現在の発展の礎を築いた人物として高い評価を得ている証左といえよう。

 また、日本にとっては大きな出来事である日中国交回復であるが、日中国交回復という出来事もカラー写真付きで載せられている。その説明文は以下の通り。

 1972年、日本の田中角栄首相が訪中し、両国は正式に外交関係を樹立した。それに引き続き、多くの国が次々と中国との外交関係を築き、中国との外交ブームが起きた。我が国の外交は新しい局面を迎えたのだ。

 以上、中学生向けの中国近代史の教科書を通して、中国における「反日教育」の実態を探ってきたが、実際は「反日」というよりも「自らの正当性を強調する」という内容になっており、日本をターゲットに攻撃性をあらわにした内容ではなかった。もちろん、日清戦争、日中戦争時に関しては一方的と思える記述はある。しかし、本書から読み解けるのは「反日」というより、自らが列強諸国に虐げられていた、という事実へのこだわりと、現在の好調な成長に対する自信である。ニュースなどを見る時に、単に「反日」と見るのではなく、中国人の中にある「中国対旧列強の先進国」という構図が息づいていることも考慮してみれば、さらにさまざまな事象の構造が見やすくなるのではないだろうか。