今週も先週に引き続き、中国の近代史の教科書をご紹介する。

今回紹介する書籍
題名:義務教育課程標準実験教科書 中国歴史 8年級
編者:課程教材研究所 歴史家庭教材研究開発中心
出版社:人民教育出版社
出版時期:2006年(第2版)

 まず、上巻の目次を見てみよう。

第1単元 侵略と抵抗
第2単元 近代化への模索
第3単元 新民主主義革命の勃興
第4単元 中華民族の抗日戦争
第5単元 人民解放戦争の勝利
第6単元 経済と社会生活
第7単元 科学技術と思想文化

となっている。

 第1単元を見ると、中国人が外国人に対して攻撃的になりがちな理由が見て取れる。第1単元の第1課はアヘン戦争。冒頭の部分をご覧いただこう。

19世紀前半、英国は最も強大な資本主義国家となった。国外の市場を開拓し、工業製品を販売し、安い工業原料を略奪するために、英国はその侵略の矛先を中国に向けた。当時、イギリスは中国に毛織物、生地を輸出していたが、あまり売れてはおらず、一方、中国からは大量の茶葉、シルク、磁器を購入していた。中英の貿易において多くの銀が中国に流入した。のちにイギリスは毒であるアヘンを中国に売り込めば暴利を得られると考え、中国にアヘンを密輸した。このことにより多量の銀がイギリスに流入し、中国の困窮を加速させた。また、アヘンは吸飲者の体を破壊するため、アヘンの輸入は中華民族に多大な災難をもたらした。

 文の構成要素として文法的に日本語よりも形容詞を必要とする場面が多いためもあって、日本人から見ると中国語の文章は主観的だ。第1単元ではこの後、「第2次アヘン戦争時に列強諸国が中国で犯した罪」「新疆を取り戻す」「日中戦争」「8か国連合による中国侵略戦争」と続く。教科書を真面目に学ぶほど、生徒は「自分たちの国はなんてひどい目にあったんだろう」と考えても当然な記述になっている。また、前述の文法的制約は除いても、この教科書の第1単元に関して言えば、世界の情勢などの説明はなく、中国がいかにひどい目にあったか、という記述に終始している。補足説明なしにこの教科書だけを読んでいたら「世界中の先進国が寄ってたかって中国を食い物にしていた」と感じるのも当然である。

 この単元では日中戦争についても説明されているが、ここに関して言えば、ほかの国と同様に扱われており、特に反日だけが突出しているわけではない。本教科書全般に言えることだが、全体的な印象として「反日」というより「いかに中国が不合理に迫害されてきたか」ということが強調されている。特に日本だけを嫌悪の対象としたものではない。極論すれば、この教科書を見る限り、中国は潜在的には当時の列強と呼ばれた国々すべてに対して嫌悪、あるいは恨みの情を持っているともいえる。その点は国際社会でも広く認識されるべきだと思われる。

 また、本書は「中国歴史」の教科書であるから、当時の社会情勢、文化にも触れているし、人民解放軍と国民党軍の戦いについても説明している。国民党との戦いに関しては、練習問題として「開戦時の兵力は国民党の方が圧倒的に高かったのに、なぜ人民解放軍が勝利したのか」など深く掘り下げる問題も出しており、ここでも現政権の力を再認識させるような内容になっている。そういった意味でも「反日」というよりは「共産党の求心力を高める」教育と言った方が正確だろう。