本連載を始めて今月で丸2年、ご紹介した本はちょうど30冊になった。ご愛読いただいている皆様、ありがとうございます。そこで「記念に」というほどではないが、この機会にビジネス書ではない書籍をご紹介しようと思う。

今回紹介する書籍
題名:義務教育課程標準実験教科書 中国歴史 8年級
編者:課程教材研究所 歴史家庭教材研究開発中心
出版社:人民教育出版社
出版時期:2006年(第2版)

 昨年9月に反日デモが暴動化した際、その一因として「反日教育」が挙げられた。しかし、実際に中国ではどのような教育をしており、いかにそれが「反日的」なのか、という点に関する資料はあまり示されていなかった。そこで、今回は一部実験学校と言われる学校で使われている「中国歴史」の教科書をご紹介しながら、「反日教育」の内容を見ていきたい。今回取り上げるのは『義務教育課程標準実験教科書 中国歴史 8年級』(課程教材研究所 歴史家庭教材研究開発中心 編著 人民教育出版社)で、2001年に全国中小学教材審定委員会の審査を通っている。対象学年は中学2年生にあたる。上下冊に分かれており、各120ページ程度。扱う時代は、上冊(上巻)が1840年のアヘン戦争から1949年の人民解放軍による国民党政府に対する勝利までで、下冊(下巻)が1949年の中華人民共和国建国から2001年のWTO(世界貿易機関)加入までとなっている。

 本書を通読した際の第一の印象は、「こんな教育を受けていたら外国に対して攻撃的になって当然」だった。本コラムでもかつて「憤青」に関する書物をご紹介したことがあるが、「憤青」の存在は今中国で大きな問題となっている。憤青とは「憤怒青年」を略した言葉で「フンチン」という。日本でいうネット右翼のような存在で、偏狭な愛国心によって政治的な行動をとる若者を指している。反日暴動の際に日本のデパートなどに押し入った若者をイメージしていただけばいいだろう(実際には政府に動員された者、単に騒ぎたい者も多かったと言われるが)。我々日本人にとっては反日感情ばかりが印象に残りがちだが、2008年のフランスのサルコジ大統領のチベット問題に関する発言に端を発し、フランスの大手スーパーマーケットを狙い撃ちにした「カルフール不買運動」など、中国の若者の外圧に対する反応は過激であり、また、日本人から見ると論理的整合性に欠ける場合も多い。たとえば、カルフール不買運動のきっかけはカルフール(Carrefour社)本体ではなくフランス政府の見解やフランスの一部活動家の言動(北京オリンピックの聖火ランナーの走行を妨害するなど)であった。そこでなぜカルフールに抗議に行くのか、カルフールでものを買わなくなるのかについて当時のニュースを見て理解できないと感じた日本人は多いことだろう。

 しかし、筆者は本書を読んでいくうちに彼らの行動の背景を知ることができた。本書で書かれているような歴史認識でいれば、当然中国人は「我々は常に不当に虐げられてきた」「悪いのは全部外敵である」と考えるようになるだろう。

 では、その教科書には何が書かれているのか。次週では上巻の内容を詳しくご紹介したい。