東芝セラミックスという会社をご存じの方は多いと思います。言わずと知れた東芝の関係会社で、シリコンウエハーやセラミックス製品などの事業を有していました。この会社が一躍世の中に知られることになったのは2006年のこと。経営陣によるMBO(マネジメントバイアウト)を実施し、東芝から独立すると発表したのです。当時のエレクトロニクス業界は、米国を中心に投資ファンドと組んで自社の構造改革を図る動きが活発でした。例えば、大手半導体メーカーの米Freescale Semiconductor社が、2006年に投資ファンドに買収されて非公開企業になりました。2007年初頭には、米Sun Microsystems社が投資ファンドのKKR社から7億米ドルの融資を受けています。

 前述の東芝セラミックス経営陣によるMBOも、米国の投資ファンドCarlyle Group社の日本法人などが関係していました。当時の東芝セラミックスの経営陣は、「東芝グループ内にとどまっていると成長に必要な投資ができない」(同社)ことなどを理由に、MBOに踏み切りました。こうして2007年6月1日に誕生したのがコバレントマテリアルです。そのコバレントマテリアル、初年度の2007年度こそ、営業黒字を確保しましたが、続く2008年度、2009年度と連続して営業損失を計上します。その原因となったのがシリコンウエハー事業の不振です。市場シェアが約5%と低迷していた上、開発投資もかさむ中、リーマン・ショックが直撃したことなどが響いた形です。シェアが低いことから、リーマン・ショックの傷が癒えた後も、将来展望を描きにくくなっていました。

 こうした状況下でコバレントマテリアルが事態の打開に動きます。シリコンウエハー事業を同社の子会社であるコバレントシリコンに集約し、その上でコバレントシリコンの全株式をウエハーメーカーの台湾Sino-American Silicon Products(SAS)社に350億円で譲渡すると2011年8月に発表したのです。SAS社は、個別半導体向けを中心とした半導体向けウエハー事業や太陽電池向けウエハー事業を展開してきましたが、コバレントシリコンの買収を機に、大口径の半導体ウエハー事業に本格的に参入しています。

 SAS社がコバレントシリコンを買収したのは、SAS社がさらなる成長を遂げるための最善策と考えたからです。同社は2008年の時点で、今後いかに成長するかを考え、2つの案を検討しました。1つは、新しいウエハー工場を建設すること。ただし、この案では売上高を伸ばすまでに、時間と資金がかかってしまうという理由で採用しませんでした。もう1つの案は、優れた会社を買収することです。買収によりすぐにキャパシティが手に入り、時間という観点では申し分ありません。資金面でも、製造装置などを新規に購入する必要がある前者より後者が有利との試算が出たといいます。当時、買収候補はコバレントを含めて3社あったそうですが、このうち、コバレント買収が最良と考えたのは、まず日本のエンジニアが非常に優秀であり、さらに日本と文化が似ていることが理由でした。具体的には、社員が勤勉でよく働き、会社を愛する、といった点で共通点があると考えたそうです。

図1●Sino-American Silicon Products社President(兼グローバルウェーハズ・ジャパン代表取締役会長)のDoris Hsu氏
図1●Sino-American Silicon Products社President(兼グローバルウェーハズ・ジャパン代表取締役会長)のDoris Hsu氏
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図2●Sino-American Silicon Products社のウエハー製品
図2●Sino-American Silicon Products社のウエハー製品
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