金融緩和に積極的な黒田東彦・アジア開発銀行総裁を日本銀行の次期総裁に、同じく金融緩和に積極的な学習院大学の岩田規久男教授を副総裁に起用する人事案を、政府が固めたことで、為替レートは一時、約2年10ヶ月ぶりに1ドル=94円を超える円安となりました。仮に1ドル=94円程度の水準の為替レートが定着すれば、この為替レートがフルに寄与する来期の営業利益は、製造業主要30社で2兆円押し上げられると、2013年2月26日付の日本経済新聞が伝えています。

 円安効果が最も期待されているのがマツダです。2012年11月半ばに比べて株価は2.6倍と、上昇率は日経平均採用銘柄でトップになっています。輸出比率が約8割と、日本の自動車メーカーの中で最も高く、円安メリットを最も強く受けることがその背景にあります。加えて次世代技術「SKYACTIV」による車両の製造コスト低減も進み、来期に向けて増益期待が膨らんでいるのです。トヨタ自動車も、1ドル=94円の円安が続けば、5000億円以上の増益効果があると試算されています。

 この円安基調は今後定着していくのでしょうか。一般に、為替レートは、長期的には購買力平価に連動して変動すると言われます。例えばA国で物価が上昇し、別のB国で物価が下落すると、A国では貨幣の価値が下落し、B国では上昇することを意味するので、それぞれの貨幣価値の上昇・下落を調整するために、国Bの貨幣価値は、国Aの貨幣価値に対して上昇するというわけです。実際、ここ15年ほどで日本の消費者物価は5%程度下落していますが、米国では同じ期間に物価が1.5倍近くになっています。15年前は1ドル=120~140円程度でしたから、この間の日米での物価変動を加味すれば、1ドル=80円程度の為替レートは、決しておかしくないということになります。

 ここから分かるのは、日本がデフレから脱却し、緩やかな物価上昇に転じなければ、為替レートの基調は再び円高に戻る恐れがあるということです。現在は、日銀による金融緩和で、期待物価上昇率が上昇するとの予測から、実際の物価上昇を先取りして円が安くなっているわけですが、金融緩和がデフレの解消に本当につながるのかどうかは、専門家の間でも意見が分かれているのが実情です。

 ただ、現在の円安が期待先行だとしても、それにより企業の利益が増え、企業の投資意欲の拡大や、給与の増加による消費の増加につながれば、景気の好転による物価上昇につながるはずです。実際の物価上昇につながるまで、期待物価上昇率をいかに持続することができるか。これが安倍政権が円安基調を維持するためのカギになりそうです。