切削:5軸加工の普及で利用拡大

 切削加工のCAMデータを検証するツール(一覧表[1])は、素材形状の3Dモデルから工具の3Dモデルが通過する部分を取り除いていく処理が基本である。ソリッドモデル・ベースのCADが本格的に発展したのと同じ時期から開発が進んだ。当初から5軸加工での利用が多く、これは多くの加工現場で経験を積んでいた3軸までの加工と異なり、生産技術や加工の担当者にとってカッタパスが把握しにくいものであることから、正当性を評価するツールが必要になったためと考えられる。

* 切削シミュレーションの草分けの一つである「VERICUT」の開発会社、米CGTech社の創立は1987年。

 近年は5軸加工機や、あるいは多面加工の可能な工作機械の普及に伴って、切削シミュレーションの利用も拡大している。例えば「CAMデータは必ずシミュレーションで検証するという社内ルールを設けているメーカーも増えてきた」〔「VERICUT」開発会社日本法人のCGTech(本社東京)〕。

 ユーザーのニーズの内容も変化している。「以前はカッタパス自体の検証だけだったが、ワークの付け外しやドアの開閉といった、工作機械全体や周辺機器も含めた動きの検証も可能にした」(同社)。加工期間の短縮には工作機械の主軸が動いている時間だけでなく、その前後のワークの取り回しや工具交換の時間も効いてくるためだ(図1)。

図1●工作機械全体をシミュレーション
図1●工作機械全体をシミュレーション
CAMデータにおける主軸の動きだけでなく、機械全体や周辺も含めた検証が可能になっている。「VERICUT」(米CGTech社)の画面。
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切削加工におけるカッタパス最適化
(VERICUTによる。白く直角に曲がる線が送り(F値)調整による負荷最適化後、赤い線は最適化前)

 高い精度が求められる加工では、シミュレーションに求める精度も細かくなる。「1μm単位での工具の食い込みも評価したいというユーザーが出はじめている」(同社)。曲面加工では、一度工具が通った場所のすぐそばを再び工具が通るときに数μmの段差が生じることがあり、このようなパスで加工すると粗さが見た目で非常に目立つためだ。

 一方で、高精細な加工ではCAMデータの容量が大きくなり、これを一括してシミュレーションできることも重要になっている。CAMデータに含まれるカッタパスは通常は折れ線であり、高精細な加工のデータは極めて微細な折れ線の集合になるため、データ量が増えてしまう。一括して読み込めない量のデータは、分割して検証する必要があるが「多少は時間がかかっても、一括で扱える方がいいという要望を聞いている」(同社)。

 高精度での検証には、それだけ計算時間がかかるが、これを短縮する試みも進んでいる。三菱電機はμm単位の切り込みを評価することを目的にした新アルゴリズムを開発、平坦な曲面は広い範囲で、起伏の多い曲面は狭い範囲でそれぞれ近似することで、データ量を増やさずに曲面を表す。3年後の実用化を目指している。

一覧表●加工シミュレーション・ツールの例(切削)
製品名 開発会社 概要 連絡先
切削(カッタパスのシミュレーション)
G-Navi アイコクアルファ 航空機部品などの5軸マシニングセンタによる加工経験を基に開発。干渉場面の繰り返しアニメーション再生、ニアミスのチェックなどの機能が特徴。 アイコクアルファ
IMSverify 米IMS Software社 5軸加工用の汎用ポストプロセッサ「IMSpost」と連携しており、IMSpostでのユーザーの指定をそのまま引き継ぐ。3軸ミリングと旋盤に加え、4軸/5軸のミリング加工(マシニングセンタ)や複合加工機 に対応。 実践マシンウェア
MfgSuite 森精機製作所 森精機の工作機械NMVシリーズ(旋削仕様含む)、NTX/NTシリーズ(NT6600 DCGを除く)、NHX/NHシリーズ、NVXシリーズ、NLXシリーズと制御装置(MAPPS)に対応。干渉チェックを伴うカッタパスの検証に用いる。 森精機製作所
NCSIMUL 仏SPRING Technologies社 加工プログラムの1行ごとの切削情報をリアルタイムに表示できる。ワーク形状も加工プログラム1行ごとに記録する。 セイロジャパン
NCVIEW シンプルテック 同時5軸や5面加工のシミュレーションが可能。対応可能な制御装置はFANUC、OSP、MELDAS、TOSNUC、NEDAC、YASNUCなど。 シンプルテック
ProductionModule 米Third Wave Systems社 切削時の負荷を予測し、送り(F値)を細かく制御することで負荷の平準化を図る(パスの軌道は変更しない)。 伊藤忠テクノソリューションズ
VERICUT 米CGTech社 マクロプログラム、システム変数、マクロ変数、ATC動作、パレットチェンジなどの機内動作もシミュレーションできる。設計モデルの比較による削りすぎ・削り残しの予測、工具への負荷を考慮したカッタパスの最適化も可能。複合旋盤、5軸加工機、グラインダ、ワイヤ放電、形彫り放電などの工作機械と、FANUC、Siemens、heidenhain、MAPPS、MAZATROL、OSPといったコントローラに対応可能。 CGTech
切削(現象のシミュレーション)
AdvantEdge FEM 米Third Wave Systems社 有限要素法で切削現象をシミュレーションし、切削温度、切削力、切り粉形状、工具の応力分布、工具摩耗量、被削材の残留応力、バリ形状などを求める。 伊藤忠テクノソリューションズ