引火事故の発生確率は1/100億

 無論、HFC-32にはR-410Aと比べて劣っている点もある。それは物質の燃焼性だ。

 実は、この点が非常に複雑なのだが、HFC-32は「微燃性」の物質でありながら「極めて可燃性の高いガス」でもある。冷媒の燃焼性を規定する規格が幾つかあり、規格によって区分が違っているためだ。

 例えば、米冷凍空調学会(ASHRAE)の「ASHRAE 34-2010」や国際標準化機構(ISO)の「ISO/FDIS 817:2012」(ファイナルドラフトの段階で、規格にはまだ反映されていない)では、HFC-32は微燃性の物質として位置づけられる。一方、国際連合(UN)の「GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)」では、極めて可燃性の高いガスという分類。さらに、日本の「高圧ガス保安法(一般高圧ガス保安規則)」では、可燃性ガスに非該当の不活性ガスに区分される。

 この違いはどこから来ているのか--。日本フルオロカーボン協会によれば、HFC-32は「燃えるけど燃えにくいもの」。それが、GHSでは極めて可燃性の高いガスに分類されるのは、「GHSが『燃焼範囲』だけで燃焼性を分類しているため」(同協会)だという。

 ここでいう燃焼範囲とは、空気に当該ガスがどのぐらい混ざったときに燃えるかを示すガス濃度の範囲のこと。GHSでは、標準気圧101.3kPa、温度20℃の環境下において、燃焼範囲の下限値(LFL)が13体積%以下、または燃焼範囲の幅「上限値(UFL)-下限値(LFL)」が12体積%以上のものを、極めて可燃性の高いガスと規定している。HFC-32の場合は、燃焼範囲が13.3~29.3体積%で、燃焼範囲の幅が16.0体積%と該当することから上記のような区分になるのだ。