米国で会社を登記しても、米国企業ではない

 「米国西海岸のIT関連企業の本社を訪れると、必ずインド人の経営幹部がいる。それは、インドをソフトウエア関連の課題解決の場ととらえているからだ」。

 昨年、東欧の国ブルガリアを取材した際にも、パラダイム・シフトの現実に触れる機会がありました。ビル管理や空調制御、車載機器などを手掛ける米国メーカーのJohnson Control社は、世界に6カ所ある研究開発センターの一つをブルガリアの首都ソフィアに開設しています。同社のエレクトロニクス技術関連の研究開発センターとしては、世界最大規模だそうです。(日経エレクトロニクスの関連記事「二つの顔を持つ東欧の国、アジアと欧州をつなぐ」、有料会員限定)

 同社の生産拠点がブルガリアにあるわけではありません。純粋な研究開発としての位置付けで、手掛けるのはヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)や、家庭内の電力管理システム(HEMS)、電気自動車の電池管理といった次世代技術。そこで研究開発を手掛けるブルガリア出身の技術者は、必ず国外にある別の研究開発拠点でも働く制度になっているといいます。

 先に登場したインドのSibal氏は、こうも言っていました。「米国で会社を登記しても、もはや米国企業ではない。世界中から部品を調達して中国で製品を生産し、ソフトウエアやサービスをインドで開発し、顧客サービスをベトナムから提供する。こうした新しいパラダイムが、世界経済を動かしている」。

 そう言われてみれば、家で使っている米国メーカーのパソコンの故障でサポート・センターに電話すると、とても流暢な日本語を操る中国出身と思われる担当者が対応してくれました。もしかしたら、あの担当者は日本でもなく、中国でもなく、インド、もしかしたらベトナムで電話をしている。

 グローバル経済のパラダイム・シフトの現実を目の当たりにすると、出版という超ドメスティックな業界で働く記者としては、自らの立ち位置を自問自答してしまうのです。