日本メーカーにラブコールを送る国

 自社の製品を作っているとはいえ、他社の工場について住所まで自ら情報を開示するという話題が出てくること自体、デジタル時代のグローバル生産の形なのかもしれません。「パラダイム・シフトが起きている」と言われるゆえんの一つなのでしょう。

 日本メーカーも、数十年前から製造拠点をグローバルに広げる取り組みを進めてきました。現地工場の立ち上げは一定の効果を上げてもきました。ただし、現状を見ると必ずしも業績を高めることには直結しなくなっている印象です。

 ここにきて、その日本メーカーに「我々と組んで、真のグローバル企業に脱皮しよう」。こう熱烈なラブコールを送る国が現れました。

 それは、インドです。

 ソフトウエア産業を強みとするインドは、2020年までに1000億米ドル(約9兆2000億円)を投じてエレクトロニクス関連のハードウエア産業を育成する政策を本格化しています。機器を組み立てる製造工場だけではなく、LSIの製造にも乗り出すなど、製品開発のより上流まで踏み込む計画です。2013年2月には、同国のKapil Sibal通信情報技術相が来日し、トップ営業で大手メーカーなどに政策への協力を求めました。(関連記事「インド、『エレクトロニクス大国』への道」)

 Tech-On!とのインタビューでSibal氏は、ラブコールと同時に日本のエレクトロニクス業界の現状を厳しく指摘しています。「日本企業は世界経済のパラダイム・シフトを受け入れていない」と。日本のエレクトロニクス・メーカーは「多くの国で活動している(multi-national company)けれども、真のグローバル企業にはなっていない」という言葉が印象的でした

 この話を聞きながら、以前、日本人研究者からも同じ分析を聞いたことを思い出しました。企業の人材活用などを研究する早稲田大学の白木三秀教授です。同教授は、「日本企業は“多国籍”というよりも“二国籍”と呼ぶ方が実情に合っている」と語っています。(関連記事「日本人のアジア派遣者調査:現地の評価はなぜ低い」の前編後編

 白木教授は、日本メーカーの海外拠点で2年をかけた大規模な調査を実施しました。その結果、見えてきた現状は日本メーカーの海外の製造拠点には、ほとんどの場合、日本人の海外派遣者と現地人スタッフしかいないということ。第三国の人材を見ることはほとんどない。しかも、長年の蓄積で優秀な現地人スタッフは育っているのに、なぜか幹部として引き上げようとはしない。本来は、その人材が日本の本社で経営幹部となってもいいはずだし、ほかの国の現地法人に派遣してもいいわけです。でも、その動きは多くありません。

 インドのSibal氏も言葉は違えど、同じことを指摘しました。