大気汚染を引き起こす耳慣れない原因物質がメディアを賑わせている。その名は「PM2.5」である。

PM2.5への関心増で防塵グッズに商機
写真は、スリーエム ヘルスケアが販売する微粒子防護用のマスク。米国労働安全衛生研究所(NIOSH)が微粒子用マスクについて定めた規格「N95」に準拠する。北京の日本大使館は、外出時にPM2.5対策で着用するマスクとしてN95準拠品を例に上げている

 話題になったキッカケは2013年1月に、福岡市など西日本の観測所で通常よりも3倍ほど高いPM2.5の観測数値が出たこと。偏西風に乗って大陸から飛来した汚染物質が数値上昇の原因との見方が強く、北京を中心に深刻な問題になっている中国の大気汚染が「ついに日本にも影響を及ぼし始めた」という懸念が広がった。

 以前から中国での大気汚染は、社会問題として報じられていた。ただ、まだ「海の向こうの話」という印象が強かったのだろう。自国での観測数値の変化がイメージを変え、日本の消費者の不安に火をつけた格好である。日本の環境省が大気汚染の観測結果を公表しているWebサイト「そらまめ君(大気汚染物質広域監視システム)」にはアクセスが殺到。つながりにくい状況になったほどだ。

そもそも、PM2.5とは

 環境省は2013年2月に、日本国内での「PM2.5」の常時観測体制を強化する方針を打ち出し、大気汚染や健康被害の専門家による会合を招集した。同月中にメドにデータ分析の評価などを取りまとめる。外務省から中国側に大気汚染の問題について協議の実施も申し入れた。

 国境を越えた汚染物質の飛来は今後、日中間はもとより、世界的に大きな課題になる可能性がある。経済成長が急速に進行する新興国と、近隣の先進国の間で同じような状況は今後増えるだろう。外交政策にも影響を与えかねない。一国が環境基準を強化しただけでは解決できない点に問題の根深さがある。

 では、そもそも「PM2.5」とは何か。

 PM2.5は、決して新しい言葉ではない。「PM」は英語で「Particulate Matter」の略。日本語では「粒子状物質」と呼ぶ。μm単位の固体や液体の微粒子のことで、主に汚染の原因物質として大気中に浮遊する粒子状の物質を指す言葉だ。単一の化学物質ではなく、炭素やNOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄参加物)、金属などを主な成分とする多様な物質が混合している。工場の排煙やディーゼル車の排気ガスなどの人間による経済活動に加え、火山などの自然活動も粒子状物質の発生源だ。