約1年前、筆者は「“オープンホスピタル”で次のイノベーションを」というタイトルのブログを執筆しました。2012年2月に開催された「メディカルクリエーションふくしま2011」のパネル討論では、防衛医科大学校 副校長の菊地眞氏が「例えばオープンキャンパスのように、病院内のさまざまな業務を多くの企業や技術者に見てもらうことが必要ではないか。その中で、国内企業が持つ技術を生かせる部分を見つけることができるかもしれない」と発言していました。同氏が指摘するような“オープンホスピタル”とも言うべき仕組みこそが、今後のイノベーションを生みだす一つの方策ではないかという内容のブログです。

 あれから約1年、筆者は日経エレクトロニクス2013年2月18日号の特集記事「革命 医療機器開発 ~部材メーカーが導くイノベーション~」に向けた取材を通して、ここ最近、あちらこちらで実際に“オープンホスピタル”が動き始めていることを知りました。

 例えば、東京都大田区にある東京労災病院。同病院では、手術台の可動部がさびやすいという不具合に困っていたことから、ミニチュア油圧機器などを手掛けるJPN(東京都大田区)の技術者に実際の手術の様子を見せたといいます。その結果、同社の技術者は消毒液がシリンダに付着してさびてしまうことが原因であると判断。同社は現在、消毒液への耐性を持つシリンダ開発を進めているようです。

 自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床工学部 技師長の百瀬直樹氏も最近、部材メーカーの技術者に手術室などを見せる取り組みを積極的に進めているといいます。「既存の医療機器メーカーよりも、これまで医療機器とあまり接点がなかった部材メーカーの提案の方が面白いことが多い」(同氏)。

 医療従事者が、こうした“オープンホスピタル”に意欲的になるのは、医療現場にはこれまで満たされていなかった細かなニーズが数多く存在することを示していると言えるでしょう。経済産業省は、平成22年度補正予算から「課題解決型医療機器等開発事業」を実施しており、その一環として2013年1月下旬、医療ニーズと企業のシーズのマッチングを促すためのWebサイト「医療機器アイデアボックス」本格稼働しました。ここには、医療現場の具体的なニーズが幾つも示されています。それらはまさに、これまで満たされてこなかった医療ニーズに他なりません。なお、同Webサイトでは、医療現場が提示しているニーズを誰もが閲覧でき、企業は必要に応じて医療機関にコンタクトを取れるようになっています。

 いよいよ動き出した“オープンホスピタル”。その具体的な成果が見えてくるのはこれからですが、あちらこちらで始まりつつある「技術者 meets 医療従事者」は、有望な次のイノベーションの種であると筆者は考えています。

 なお、前出の自治医科大学附属さいたま医療センターの百瀬氏をスペシャル・ゲストとしてお招きし、今後の医療機器のイノベーションをエレクトロニクスやものづくり系の企業・技術者と一緒に考える「医療現場から見た、部材企業への期待 ~医療機器のイノベーションに向けて~」を、2013年3月7日に開催いたします。ご関心のある方は、ぜひご参加いただければ幸いです。