ヘリウム循環装置で消費量を1/100に

 さらにユーザー側でも消費量を大幅に減らす工夫を始めた。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の武田常広氏は、MEGを使った研究のために、自ら会長を務めるベンチャー企業FTI(Frontier Technology Institute Inc.)で開発したヘリウム循環装置を利用している。この装置は、循環装置に組み込む冷却装置を年間1回程度保守する時以外にヘリウムを投入しなくてよい。冷却装置の目詰まりの原因となる不純物を取り除くフィルタを新たに開発、保守周期を大幅に長くした。断熱チューブも新規に開発した。これで冷却装置をMEGの雑音源とならないように数m離して設置しても、ヘリウムの搬送時に温度がほとんど上昇しない。ヘリウム消費量は、冷媒を使い捨てにする場合の1/100に減るという。

FTIのヘリウム循環装置(資料:東京大学 武田常広氏)
蒸発したHeガスを室温まで上げず低温で回収して液化する。フィルタ(Refiner)によって冷却装置(GM cryocooler)の保守周期を長くした。
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 数十年先の将来を見ると、新しいヘリウム生産技術が実用化する可能性はある。その一つは空気中に微量に含まれるヘリウムを採取する方法である。大気中のヘリウム濃度は0.0005%程度と、天然ガスにおけるヘリウム濃度(現在の採算分岐点の0.3%超)よりも大幅に低い。現在は採算が合わず、実用化されていないようである。核融合による生産方法もある。核融合が実用化された際には、副生成物としてヘリウムが出来る。ただし、つくられるエネルギーに対して生成されるヘリウムは少なく、ヘリウムの大量生成を目的とするには向かないかもしれない。今後、既存の採取方法よりも複雑な工程を経る新規手法を低コスト化する技術が求められる。

■変更履歴
ヘリウム循環装置の原理図を追加しました。 [2013/02/15]